2017年12月25日月曜日

UFC219・事前予想など

年末年始の格闘技興行レポートは、年末進行とPC環境的にたぶん投稿できない。RIZINは31日だけ見られる可能性があるが、それとUFC219についてのレポートはおそらく無理。そういう訳で、本投稿はUFC219の簡単な紹介のみである。
クリス・サイボーグvs.ホリー・ホルムは面白いマッチアップだ。トータルファイターとしてのサイボーグに対して、戦略&スピード型のホルムというスタイル戦と言える。ただホルムはロンダ・ラウジー戦後に三連敗しており、その相手はそれぞれミーシャ・テイトヴァレンチーナ・シェフチェンコジャーマイン・デ・ランダミーであった。この内テイトはボクシング+レスリングタイプだったが、後の二人はキックボクサーからMMAにアジャストしたタイプで、ホルムとしては不本意な結果だっただろう。その後、ベチ・コヘイア戦を得意のブラジリアンキック気味のハイによってKO勝利し、今回の試合にこぎつけた。
一方、体重調整に苦しんできたサイボーグは実のところ有名選手との戦績には乏しく、今回はUFCトップ戦線との一戦ということで、UFCでの真の試金石的なファイトとなるだろう。強いて言えば…サイドキックなどで距離をキープし、角度を支配しつつサイボーグの穴を突ければホルムだろうが、サイボーグのMMAファイターとしてのパワーとバランス、トータルの完成度は群を抜いているので、それを突破してサイボーグ有利となるような気はする。
スタイル・マッチアップで言えばこの大会のカビブ・ヌルマゴメドフvs.エジソン・バルボーザも当然のごとく超注目カードだが、ifの可能性が多いこういう試合について、あれこれ事前予想するのは楽しいものである。マイケル・ジョンソン戦を見る限りでもヌルマゴメドフのような気もするが、いくら確率計算しても計算しきれない結果が現れることこそ、格闘技の面白さの一つである。オッズもブックメーカーによって、それぞれ真逆の数値になっている。
ところで、上の動画は同じトレーニングの様子をサイボーグとホルムで対比させたものだが、オールアウト的な感じが多いサイボーグに対してテクニカルなホルムと、両者の違いを見るのも興味深い。

ウェブに動画がいろいろと上がるようになり、プロのトレーニングやスパーの様子が見られるのは、時には試合を見るのと同じくらいかそれ以上に面白いものだ。プロの拮抗したスパーは、生で見るとそれだけで金が取れるくらいの迫力があるが、動画で見てもその一端がうかがえる。
カーロス・コンディット戦を控えたニール・マグニーが、フランシス・ガヌーとのスパーの様子をインスタグラムにアップしていたが、見ていると試合とは違った楽しさが感じられる。
塩試合の代表みたいなライアン・ベイダーのレスリングスパーも、とんでもない迫力と技術である。
和気藹々…というのとは違うが、練習でのこういった様子を見て、時に試合映像だけでは知らなかった選手の関係をのぞくことができるのも楽しいものだ。殺伐とした雰囲気だけではなく、営みとしての格闘、互いを知ることとしての格闘に触れられる気がするからかもしれない。

そういえばホルムの父親(ロジャー・ホルム)は教誨師だが、正確には思い出せないものの、以前にどこかでこんなことを言っていた。「私は格闘技を人とは違った角度から見ている。格闘技は、人間の浮き沈みを圧縮して見せるものだ」と。
勝った選手だけではなく、負けた選手にも当然人生は続く。ショービズが見せるケージの上での勝敗は絶対的なものだが、その他の場面では勝敗そのものが絶対的ではない。人間の生き方に伴うこれら両面がともに圧縮して感じられることもまた、格闘技の愉しみなのではないだろうか。

※追記。UFC219の「Inside the Octagon」がアップされ、ダン・ハーディによるサイボーグ対ホルム、ヌルマゴメドフ対バルボーザの分析が出た。やはりサイボーグのフィジカルに対してホルムのカウンターやサイドキックによる距離・戦略、ヌルマゴメドフの特殊なパンチに対してバルボーザのコンビネーションやキックの技術などに焦点を当てている。
ハーディは選手としてかつて好きだったが、いまや熟練の解説者である。「ジ・アウトロー」だった現役の時には、こんなに分析的に語れる人物とは想像がつかなかったなあ。

2017年12月18日月曜日

UFC on FOX 26:ローラーvs.ドス・アンジョス

サンチアゴ・ポンジニッビオvs.マイク・ペリー(UFC on FOX 26
ハファエル・ドス・サントスvs.ロビー・ローラー(同上)
カナダ・ウィニペグでのUFCファイトナイト。試合は1ラウンド早期KO決着(ノーディン・タレブダニー・ロバーツグローバー・テイシェイラミーシャ・サークノフ、そしてジョシュ・エメットリカルド・ラマス)か、さもなければフルラウンドとなる試合にハッキリ分かれた印象だ。
ただ見出しに挙げた二つの試合は後者で、フルラウンドにわたり削り合う試合となった(結果、この投稿もなかなかの長さになってしまった)。
マイク・ペリーといえば、UFCファイトナイト・ゲダンスクドナルド・セローニに勝利したダレン・ティルがオクタゴンインタビューを受けている際に、何故か笑、ケージに詰め寄って口論になったことで注目を浴びた選手だ。やんちゃ感のあるビッグマウス、さらに今回はテニスプレイヤーであるガールフレンドが彼をサポートしている様子が報道の全面に出ていた。いろいろと話題を提供しメディア映えする、ポストマクレガー的なタイプの選手である。
戦績はこれまで11勝1敗。アラン・ジョウバンに負けてはいるものの、ジェイク・エレンバーガーイム・ヒョンギュ等の選手に勝っている。
一方のサンチアゴ・ポンジニッビオはアルゼンチン出身の31歳。ブラジルで経験を積んだ後アメリカへ移り、現在はATTで練習。こちらはUFCファイトナイト・グラスゴーで、グンナー・ネルソンを82秒葬して強さを印象づけたベテランだ(25勝3敗だった)。ペリーは単なる通過点であり、この試合に勝ってベルトへの挑戦をアピールすると試合前から語っていた。
ちょうど注目の風が吹いてきた者同士のマッチメイクである。
1R。ペリーはどっしりした構えで前に圧力をかける。一方、ポンジニッビオはアウトボクシングで左右に回り、フットワークを使いつつペリーとの距離・角度を探る。ペリーは横蹴りなども交えながらポンジニッビオを追う。両者共に手は下げ気味、ウィービングで打撃を避ける構え。
ポンジニッビオ、膝下に当てる蹴り(ローレッグキック)を何度かヒットさせつつ、圧力をかけながら詰める。だがペリーも押し返し、プレッシャーの掛け合いという形がしばらく続く。ペリーの振りは鋭く、パンチ・蹴りでポンジニッビオが尻餅をついたりケージに詰める局面もあったが、大きなダメージはない。ペリーはボディワークを使い、かなり効果的にポンジニッビオの打撃をかわしていた。どちらかと言えばペリーのラウンドか。
2R、序盤でペリーは交錯後何か入ったのか、右目を抑えるも試合続行。ポンジニッビオのハイキックを捕まえケージに押し込むが、離れられる。左を当てたのをきっかけにもう一度ポンジニッビオを捕まえ、抑えようとするもなかなか抑え切れない。ポンジニッビオは基本動きながら打撃を繰り出し、下がりつつ&左右に動きつつ打撃を出してゆく。
残り2分頃、ポンジニッビオの左フックが当たりペリーが若干ぐらつくと一気に攻勢、左右のフックでペリーと殴り合う。その場は逃れたペリーだが、20秒後にまた左フックを顎に被弾。ケージ際まで詰められ打撃戦となる。ポンジニッビオは決め切れないが、その後もローレッグキックからのパンチコンビネーションを使ってペリーを削る。だがポンジニッビオが打ち疲れか少し下がるとペリーも押し返し、攻防が入れ替わりかかった所でラウンド終了。ペリーもタフだが、このラウンドはポンジニッビオ有利の場面が印象強い。
3R、出だしからポンジニッビオが出てくる。ジャブの打ち合いが続くが、ポンジニッビオはしばしばローレッグキックでペリーの出足を挫く。
しかしペリーの右オーバーハンドが当たり、ポンジニッビオが横を向いた所に距離を詰めて畳みかけようとした際、ポンジニッビオの(この試合何度か出していた)スピニングバックフィストが当たる。ペリーはうつぶせに屈み込むように倒れ、ポンジニッビオはそのまま抑え込む。何発か側頭部にパンチを入れるも、ペリー中腰に戻しケージ際へ移動。ポンジニッビオ、ペリーが立ち上がりかけた所に今度はタックルでテイクダウン。ペリーそこから立ち上がり、後ろを取った所でポンジニッビオが離れる。すると打撃から再びポンジニッビオがタックル、テイクダウンに成功。ペリーはもぐろうとするも不可能、ポンジニッビオの打撃を地味に受け続ける。両者離れるが、ポンジニッビオがラウンドを連打で締め、最後の5秒ほどは両手を広げて流した。
判定は三者29-28でポンジニッビオ。ペリーはタフな重戦車タイプ、かつ攻撃も多彩で今後も期待できる選手だが、ポンジニッビオが競り勝った。すでに新たな技術として定着したローレッグキックが要所で効いており、打撃とタックルへのレベルチェンジとを組み合わせて攻略したポンジニッビオが、一枚上手であることを見せた試合だった。
ハファエル・ドス・サントスロビー・ローラーについての余計な説明は要らないと思うが、ドス・サントスはライト級からウェルター級に上げて後、タレック・サフィジーヌニール・マグニーに二連勝し、今度はこの階級のチャンピオンに挑戦する真価が問われる一戦だ。公開計量では身長差が目立っており、実際大丈夫か?と思ってしまったのも事実である。
一方のローラーは、7月のセローニ戦前にジムを古巣のATTから、元ブラックジリアンのヘンリー・フーフト率いるHARD KNOCKS 365に移籍している。色々あったのだろうか? キャリア終盤の移籍はマット・ブラウンもそうだったが、新たな刺激とリスキーさが同居しているだけに、どういった変化がもたらされているのか興味深い所である。
これは余談だが、私は一ファンとしてジムごとの指導やスタイルの違い、そしてフィロソフィーの違いなどをどなたかがレポートしてくれることを切に願っている。今回ラマスをノックアウトしたエメットはもろにアルファメール・スタイルという感じだったが、そういう違いに切り込んだ取材があると、格闘技の観客の見方もぐんと広められる気がする。
アメリカのUFCの広報が巧妙な所は、カジュアルファンの増加と同時に、コアな観客の啓蒙・掘り起こしにも力を入れている点にある。どちらの層も狙うというのは、マーケティングの方法論にあるのだろう。しかしいずれにせよ、知識の啓蒙は、長く競技が支持される上で絶対に必要なものだということを分かっているのである。カジュアルファンだけでは脆いのだ。
それはともかく。試合ははじまってみると、ドス・アンジョスの体格を不利とは感じさせない展開となった。
1Rからドス・アンジョスはパンチの交錯中に左フックをヒットさせるなど、むしろローラー相手にプレッシャーをかける。遠距離では攻撃にローレッグキックと膝を狙うオブリークキックを取り混ぜ、距離が近くなると首相撲に移行し膝蹴りを入れるパターン。ローラーもケージ際に詰めてダーティボクシングの攻防に持ち込むが、ドス・アンジョスもクリンチと首相撲のテクニックを駆使して攻撃する。
2R、序盤でローラーは打撃戦を仕掛けるが、ドス・アンジョスのディフェンス能力も高く、攻め切らせない。ケージ中央に戻りドス・アンジョスが左フックから右ボディでローラーのみぞおちにパンチを入れると、ローラー下がる。そこからドス・アンジョスは膝蹴りを相手の顎に入れた後、ケージに詰めて23秒の間、パンチを全く休みなしに上下に連打し続ける(その数、ダニエル・コーミエの解説によれば48発)! 腹に膝蹴りも入れた後で攻撃は終わるが、驚嘆すべきスタミナである。ラウンド最後にローラーは若干盛り返すが、ドス・アンジョスの攻撃が目立った。ローラーはみぞおちという急所をやられた感じだ。
3Rは基本密着した展開。首相撲、テイクダウン、ダーティボクシングの攻防が支配的となる。ローラーは体格の有利さで削る作戦かも知れないが、ドス・アンジョスもあまりペースが落ちない。ラウンド残り一分でドス・アンジョスの右肘が入り、ローラーはケージの中央に尻餅をつき、そこをドス・アンジョスがトップで抑える展開となる。肘のパウンドを入れ続けた後、ラウンド終了。
4R 、序盤は押したローラーだが、明らかに腹に効いており、ドス・アンジョスの右ミドルを受けて下がり出す。ドス・アンジョスはじりじりと首相撲中心の展開に持ち込んでゆき、飛び膝蹴りも交え攻め続ける。ローラーはラウンド終了後、ケージにもたれかかるようになり、疲れを表しはじめる。
最終ラウンドはケージ際でドス・アンジョスがローラーをテイクダウン、ローラーは抱えるだけで膠着したため、レフェリー指示で立って再開。やはり密着した展開だが、ドス・アンジョスが優勢で5ラウンドの試合を終えた。判定は三者50-45のフルマークでドス・アンジョス勝利。ドス・アンジョスはタイロン・ウッドリーへ挑戦したいことを表明し、ベルトを獲る意欲を示した。
ローラー35歳、ドス・アンジョス33歳ということだが、両者とも凄まじいタフネスである。共に5Rをフルに戦う持久力を見せつけたが、そこでそもそもローラーのタフネス自体に着目し、それを削るためにボディを集中的に攻めたドス・アンジョスが競り勝った。
ムエタイの技術も当然ハイレベルだが、相手の長所を明確に認識し、それに狙いを定めて作戦を練っていたドス・アンジョス陣営のファイトIQの高さもまた示された試合だった。これは選手の特性をよく理解し、信頼関係が醸成されていなければ、実行が難しいものでもある気がする。この面で、ジムを移籍して間もないローラーは不利だったのかも知れない。

2017年12月14日木曜日

[MMA]
アイザック・マルケスvs.ディエゴ・サンチェス(ジャクソン・ウィンク・ファイトナイト2
アリエル・ヘルワニのMMA HOURで知ったのだが、ディエゴ・サンチェスがジャクソン・ウィンク・アカデミーでトレーニングしているダウン症のアイザック・マルケスと、ジム主催イベントで試合をしたことが話題になっていた。
ジャクソン・ウィンク・アカデミーは自前のメディア班も持っており、このイベントも超メガジムならではの大きな規模で行われていたようだ(メインはダマッシオ・ペイジvs.ヘスース・ウルビーナ)。しかしいわゆる通常の試合だけではなく、このマルケス対サンチェスのような試合が出てくるところには、「総合格闘技」の可能性が非常に深いところでとらえられている、と感じるのは私だけだろうか。
もちろんこれは、障害に対する理解の促進の試みでもあるだろう。著名選手がそれに関わることの意義は小さくない。しかしそれだけではなく、「総合格闘技」を戦う身体においては「健常」とか「障害」といった区別が無意味になっているということが、ここに示されているように私には思えるのである。
単なる技の体系の「ミックス」ではなく、それぞれの身体の状態に合った技の「総合」が起こりうるのが、根本的な意味での「総合格闘技」なのではないか…と、ついつい考えてしまうのだ。
この問題は千差万別で全く一概に扱えないが、既に引退したXFCのチャンピオン、ニック・ニューウェルからは、「障害」という概念自体に反対している意志を感じた。また、四肢がない状態でケージに上がっているファイターの動画もyoutubeで見ることができる。「健常」と言われるものも「障害」と言われるものも全ての可能性を含めた上で、それぞれの身体がそれぞれに試し合いながら戦うメソッドを作り上げること、それが「総合格闘技」の解釈として間違っているとは、私にはどうも思えないのである。
映像を見ると、マルケスとサンチェスは練習と試合を通して強い結びつきを作っているように見えた。こういった、ビジネス的な流通とは異質なところでの総合格闘技の可能性自体が追求されているということにも、大きな意義があると思う。それは、「文化」というだけではなく、それに関する「思想」が深化する条件なのではないだろうか。

2017年12月11日月曜日

[MMA]
ブライアン・オルテガvs.カブ・スワンソン(UFCファイトナイト123・フレズノ
昨日はできればKNOCK OUTの年末大会に行きたかったが…諸事情にて行けず、無念。ただファイトパスで見たブライアン・オルテガカブ・スワンソンは素晴らしい試合だった。
オルテガは以前、youtubeのGracie Breakdownチャンネルにヘナー・グレイシーの相手役でよく出ていた、グレイシー・アカデミーの秘蔵っ子である。12勝無敗(1ノーコンテスト)の戦績の26歳、いわばライジングスターだ。一方のスワンソンは知名度の高いベテランとして、最近は有望の若手に対する試金石というか、ランキング上位への登竜門的な役割を果たしている。チェ・ドゥホとの死闘での勝利、アーテム・ロボフの粉砕に続き、今回も「門番」としての役割を果たすかどうかが事前の見所だった。
なおこの大会にはジェイソン・ナイトアルジャメイン・スターリングといった若手スター候補がエントリーしていたが、いずれも敗北。スターリングを破ったマルロン・モラエスは、レフェリーが両者を離した後に生まれた一瞬の隙を逃さず、頭部への蹴りで相手を派手にKO葬(上の動画)。またデイナ・ホワイト・コンテンダー・シリーズで見出されたベニート・ロペスは飛び膝をアッパー代りに出せるイキのいい(荒削りすぎる?)23歳だが、相手のアルバート・モラレスがタフな粘りを見せ、観客を盛り上げた試合だった。若手有望選手にスポットライトを当てようとする意図が見られた大会である。
さて、オルテガ対スワンソンに戻ろう。
メインの5R試合ということもあってか、1R序盤はローの探り合いが続く。だがやがて、パンチの交換を機にスワンソンの打撃が火を吹き始めた。スワンソンは多彩なコンビネーション、特に上に注意を引き付けてからボディーへと繋げる打撃を鋭く打ち込んでゆく。オルテガが「相手の攻撃は読めた」と言わんばかりにパリーや肩のブロッキングを駆使してそれらを防ぎ出すと、スワンソンはさらに、コンビネーションの終わりに強烈なボディを叩き込んでゆく。
スワンソンの打撃は、何というか対戦相手へのメッセージが込められているような攻撃で、相手の出方に対して「これならどうだ」という対話のような攻め方を取るところが面白い。人気の出る一因であろう。
しかし1R終盤、両者クリンチから膝蹴りという攻防で、オルテガが腕をがぶらせダースチョークを仕掛ける。小外掛けでテイクダウンをし、両者仰向けに倒れると、そこからオルテガは体を反時計回りに回してチョークを絞ってゆく。スワンソンは必死の形相で、かなり深く極まっているようだったが、ブザーに救われ両者離れた。
2R、やはり序盤は打撃戦だが、スワンソンはその中で1Rと同様、ときおり見事にボディを決める。オルテガは打撃に付き合いつつ距離を詰め、クリンチから首相撲に移ろうとするもスワンソンは嫌がり、体を入れ替え逃れようとする。だが残り1分50秒頃、オルテガがケージのゲートとなっている部分のポールをうまく使ってスワンソンを追い詰めると、またも膝蹴りの攻防から腕を首に巻きつけ、スタンドのままギロチンを仕掛ける。
(信じがたいことに)オルテガはそのままの姿勢から一度右手を外しアジャストさせると、更にディープにギロチンを絞り込み、耐えかねたスワンソンのタップを呼び込んだ! 一瞬、目を疑うほどの極め力である。
打撃で魅せたスワンソン、そこをクリアしつつ強烈なサブミッションを見せつけたオルテガ。両者の攻防は、「コミュニケーション」というような平板でつまらない言葉では言い表せない「やり取り」であり、力と技術、そしてそれらの背後に備わるもの同士が賭けられ、ぶつけられる「しのぎ合い」であった。その意味でこの一戦はまさしく、MMAを見る醍醐味に満ちた試合であった。

2017年12月10日日曜日

[MMA]
マッケンジー・ダーンvs.カリーヌ・メデイロス(Invicta FC 26
実力派にして一種アイドル的人気を誇る柔術家、マッケンジー・ダーンによるインヴィクタ初戦。すでにLFC・LFAでMMAの実戦は積んでいたが、いよいよインヴィクタへの参戦ということで期待も高まっていた。セコンドにはMMA LAB同門のベン・ヘンダーソンの姿が見える。一方、相手のカリーヌ・メデイロスはブラジル出身の38歳、8勝6敗のレコード。構えからすると明らかにムエタイ系、立ち技中心の選手である。
試合は1Rから、意外なことにダーンが打撃の攻撃に終始する。ジャブで距離を詰めつつ、左ミドルや前蹴りなども交えて相手にプレッシャーをかけてゆく。ラウンド中盤、ダーンの右のオーバーハンドがヒット、メデイロスが一瞬ふらつく。コンビネーションでメデイロスを押しながら、ダーンが終始優勢に進めた。
2Rも同様の展開。途中、ダーンの右ミドルをメデイロスが抱えケージまで押し返す流れもあったが、メデイロスはタックルに移行することもできずスタンドに戻る。このラウンドの終盤にクリンチがもつれ、倒れた所からダーンがフルマウントを奪うと、ブザーが鳴るまでパウンドの雨を注ぐ。
3R、メデイロスは殴り合いを避け、連打からケージ際のクリンチに持ち込み細かな打撃を当ててゆく。しかしラウンド残り最後50秒になった時、ダーンが大内刈りでメデイロスをテイクダウン。そのままサイドからマウントを奪う。メデイロスが右手を伸ばしたまま回転してうつ伏せになろうとした初歩的ミスを逃さず、その手を掴んでそのまま腕十字! タップアウトを奪った。
ダーンが立ち技中心の相手に、打撃でも十分に通用することを示した試合となった。大振りでスタミナを消耗するかと思えばそんな事もなく、3Rの攻防をやり抜いた点で大きな勝利だった。だがダーンのスタンドでの動きは、寝技中心の選手が立ち技をするときに見られる、上半身と下半身が連動していないような形に見えた。単発の打撃・コンビネーションの威力は本物に見えたが、内臓を動かしてスタミナを消耗してしまいそうな動き方だったので、より圧力がある相手が出てきた時こそ正念場ではないか。

2017年12月3日日曜日

[MMA]
エディ・アルバレスvs.ジャスティン・ゲイジー(UFC218
マックス・ホロウェイvs.ジョゼ・アルド(同上)
UFC218ではプレリムでヤンシー・メデイロスアレックス・オリヴェイラポール・フェルダーチャールズ・オリヴェイラ、メインでは更にティーシャ・トーレスミシェル・ウォーターソンヘンリー・セフードセルジオ・ペティス、そしてフランシス・エンガヌーアリスター・オーフリームと、この内のどれか一試合でも他の大会だったらメインが張れる試合が目白押しになっていた。
その中でもやはり気になったのはエディ・アルバレスジャスティン・ゲイジーという、改めて言うまでもなくベラトール・PRIDEとWSOFで鳴らした両者同士の対決である。「アンダーグラウンド・キング」アルバレスと「ハイライト」ゲイジーは、先のTUF26のコーチ勢として対決が予定されていた。マクレガーには辛い負け方をしたアルバレスだが、ストリートから叩き上げの猛打とレスリング力を誇る。一方のゲイジーは追い込まれてからも必ず逆転するストーリーを見せてきた、スーパータフなハードヒッターだ。
しかし試合では、アルバレスの極めて巧みなボクシング力が発揮され、パワーとテクニックを兼ね備えた戦いを見せる試合となった。1Rからアルバレスは左右と上下にボディワークを使いつつ、ゲイジーの打撃が当たらない絶妙な距離と角度から、パンチを打ち込んでゆく。連打の中にボディ打ちを組み込んでゆくが、その打撃のバラエティとパワーからは、ボクシングスキルの高さが窺われる。左右ボディからアッパーなどの連携で、前に出るゲイジーの勢いを殺し、スタミナを奪う打撃を見せてゆく。
2Rになると、ストレートやスイング気味のアッパーなどが的確にゲイジーの顎にヒットし、さらに膝蹴りも出るようになる。ゲイジーは接近しつつアルバレスを捉えようとするが、クリンチから強力なボディを喰らう。ゲイジーの鋭いローもしくは膝下を狙う蹴りはアルバレスに確実にダメージを与えていたが、アルバレスのパンチの打撃の回転力と的確さがそれを凌いでいた。
3Rはゲイジーの蹴りにアルバレスが倒れグラウンドを誘うシーンもあったが、首相撲からの膝、そしてダーティボクシングも交えたアルバレスの連打が止まらない。ゲイジーが出すアッパーも強力であり、またインローでアルバレスがよろめく場面もあったが、それを凌いだアルバレスが、最後は再び首相撲からの膝で完璧にゲイジーの顎を捉えた。ハーブ・ディーンが試合を止めKO、追い込まれたゲイジーの復活劇とはならなかった。
相手を潰すローは言わずと知れたジョゼ・アルドの代名詞だが、アルドをはじめて見た時にはその構えにまず驚かされたことを思い出す。ユライア・フェイバー戦のインパクトも凄かったが、当時のUFCはマット・ヒューズの時代からGSP黄金時代への移行期であり、レスリングへの熟達がMMAの絶対的条件として語られはじめていた頃だった(今でも必須だが)。タックルに対処するため腰を低く落とす選手がほとんどの中、アルドのアップライト気味の構えは本当に新鮮だった。アルドがあの全身バネのような身体から殺人的な打撃を出していたことは、MMAに適応させたムエタイの技術の幅を広げたのではないか、と勝手に空想する。
マックス・ホロウェイの試合ではロビン・ブラックも昔言っていたように、戦っている内に相手が必ずどんどん動きを封じられてゆき、ホロウェイのペースへと持ち込まれてゆく。試合の中で相手の動きを学習し適応させてゆく、ファイトIQの高い選手なのだろう。またリカルド・ラマス戦の最後の打ち合いについてダン・ハーディが指摘することには、UFC212でのホロウェイ対アルド(第1戦)中にパンチをもらった後、ホロウェイは両手を挙げアルドを威嚇していたが、あれはアルドの打撃がホロウェイを倒すのに十分な力がないことを見切ったためだったという。最後のハードな打ち合いも自分のプレッシャーが十分であることを計算しての殴り合いであった。自分はマクレガーのようなプロモーションはしないと宣言するあたりも含め、非常にクールなファイターである。
今回もまた、ホロウェイの学習能力が発揮された試合だった。1R序盤、アルドは相手の出方を見ていて自分から仕掛けては行かない。ホロウェイも最初手数は少なかったが、徐々に、両手を広めに開いた構えからジャブを突いてゆく。アルドは左右のパンチは出すが、どういう理由でか蹴りは出さない。ホロウェイは挑発ジェスチャーなども交えつつ、余裕ある感じでラウンドが終わった。
2Rもしばらく1Rと同じようなパンチ中心の展開だったが、中盤ようやくアルドの蹴りが出る。ホロウェイはアルドをケージ際に詰めて後ろ回し蹴り、打撃の交換の中で飛び膝なども出すが、基本はジャブを突き続ける。
3R、プレッシャーをかけ続けたホロウェイがアルドを金網に追い詰めると、互いにコンビネーションの応酬。だがホロウェイは打ち終わりに相手のパンチをもらわずそのまま次の攻撃に繋げる、攻防一体の姿勢となったパンチを繰り出してゆく。鋭い左とリーチの長い右を喰らい、アルドの顔が血に染まってゆく。アルドは金網から離れるもホロウェイ逃さず連打、アルドがたまらず倒れこみ、それをニーオンから後ろサイドで抑えたホロウェイが側頭部にパウンド連打。アルド仰向けになるが、更なるパウンドの連打にやはりハーブ・ディーンのレフェリーストップ。ホロウェイが連勝をものにした。
ホロウェイの打撃は、ボディワークと一体化してあらゆる距離から繰り出されており、そのトータルなスキルの高さが証明された試合であった。アルドの強さに衝撃を受けたことのある身としては複雑だが、パンチ交換の最後が必ずホロウェイの攻撃で終わっていたことも印象的だった。
[MMA]
ショーン・オマリーvs.テリオン・ウェア(UFC ジ・アルティメット・ファイター・フィナーレ26
ニコ・モンターニョvs.ロクサン・モダフェリ(同上)
この大会、メイン一試合目のブレット・ジョーンズvs.ジョー・ソトでは、1R開始直後のスクランブルからカーフスライサーでジョーンズがソトを下す…というレアなフィニッシュも見られたが(上の動画はカーフスライサーの技術解説)、セミファイナルとファイナルの二試合からは、凌ぎ合いからのそれぞれの選手の勝負勘が見られる戦いとなった。
ショーン・オマリーはデイナ・ホワイト主催のコンテンダー・シリーズで発掘された選手だが、かつてのセージ・ノースカットの起用といい、勢いがありかつトリッキーなスタイルはデイナの好みの一つなのだろう。長い手足から繰り出される回転系の打撃に加え、ボディムーブを多用し角度を変えて相手に捕まえさせないスタイル、そして23歳の若さと8戦無敗という戦績で注目される選手だ。見た目も何となく細身のミュージシャン風の雰囲気で、典型的な格闘家イメージと若干違う。UFCデビュー戦で今回のセミファイナル戦ということになる。
一方、テリオン・ウェアは31歳。17戦7敗、ある期間連勝しては連敗を繰り返している苦労人に見えるが、UFC2戦目でオマリーとの対戦となった。
試合は、サウスポーのオマリーが様々なフェイントを多用しつつフック、ボディ、それから体を入れかえて相手の真横に回り込んでからのミドルとハイ、時に前蹴りを出す展開。コツコツとウェアに打撃を当ててゆく。ウェアはケージ際に追い込もうとするが、距離が縮まると大きく斜めに踏み込むか体を横に入れ替え、詰めさせない。大きなダメージはないが、有効打の数では1Rは明らかにオマリーのラウンドであった。
ところが2R、オマリーのスピードが若干落ちると、ウェアが攻勢に出る。ハンドスピードや攻撃の連携では最初からほぼ遜色がなかったウェアは、オマリーがオープン側に回る際のロー、ケージ際に詰めたところで連打と膝を入れるなど、絶え間ない攻撃でオマリーを追い詰めてゆく。このラウンドはウェアが取ったと思われた。
3R、やはり一進一退の攻防が続くが、今度はオマリーが少し盛り返し、ケージに詰められなくなる。手数は出るが互いに疲れスピードが落ちた終盤、オマリーが相手の腰を抱えてテイクダウン。そして立った後にすぐ足を引っ掛け、更にもう一度連続でテイクダウンを決める。ここが勝負の分かれ目だったと思う。
結果、レフェリー三者が29-28のユナニマス・ディシジョンにより、オマリーが勝利した。試合後インタビューで、彼は勝ちに徹するためにテイクダウンを途中から狙ったと語っていた。打撃では互角という戦いの中で、自分の特徴にのみこだわらず、意識を切り替えられたことにオマリーの勝負勘が見られた試合であった。
ニコ・モンターニョロクサン・モダフェリは、ネイティブ・アメリカン系ファイターと、いわばレジェンドファイターである二人の対決となった。モンターニョはオールラウンドなMMAファイターという感じのスタイルだが、モダフェリはガチャガチャしたパンチの連打で切り込みつつ、次の攻撃に移ってゆく感じ。どことなくかつてのダン・ヘンダーソンのパンチを想起させる(ただ、強烈な右はないが)。この手の打撃は動きが読みづらく、相手にしてみるとやりにくい所もあるだろう。
いわば世代間によるMMAスタイルの違いを感じさせた両者の試合もまた、一進一退であった。モンターニョは力のありそうな構えから途切れず打撃を出すが、モダフェリも決して引かない。2Rの終わりにはモダフェリがテイクダウンを決めるが、モンターニョは三角の姿勢から肘を入れるなど、タフなせめぎ合いが続く。最後まで一方的な流れは生まれず、互角の応酬が続いた。モンターニョの顔面は赤く染まってゆくが、4Rと5R中盤でそれぞれテイクダウンを決めて印象を強め、最後に判定をもぎ取った。
こちらもやはり、打撃では両者遜色ない試合だったと思う。テイクダウンに切り替えるのはポイントゲームと言われればそうなのだが、しかし最初からゲームプランとして考えられたものというよりも、両者が競り合っている中での一つの攻撃として出されたものだった。激しい攻防の中でその機転が思いつかれたこと自体、そこで勝つために必死に賭けられたものが見られた。モダフェリが初代チャンピオンに賭けてきた気持ちも大きいかと思うと残念だが、両者の気迫のこもった凌ぎ合いは、見る者に感じさせるものがあった。