ドナルド・セローニvs.ヤンシー・メデイロス(UFCファイトナイト126)
テキサス州オースティンで開催されたUFCファイトナイト。オフィシャルが作成した上の画像で、ドナルド・セローニはアメリカ国旗を肩に掛けているのに、なぜ同じアメリカ人のヤンシー・メデイロスが掛けていないのか? という議論が試合前に出ていた。これはアメリカ中西部のデンバー出身、かつ「カウボーイ」という極めてアメリカ的アイコンを身にまとっているセローニに対し、ハワイというアメリカの中でも後発で組み入れられた周縁の地域(オアフ島ワイアナエ)出身のメデイロスという扱いの違いが、対立を煽る図式を作ろうとする余り出たのだろう(開催地がアメリカ南部、しかもテキサスということもそれを助長したと思われる)。
メデイロスはインスタグラムに「#アロハ は差別をしない」とタグ付けして投稿しており、彼のアロハの挨拶にカウボーイも共鳴したのだろう。
今回起こっていた騒動は、当然ながらセローニ本人の問題とは全く関係がない。セローニは過去にホモフォビア的な差別発言をして問題になったことはあったが、直ちに非を認めて謝り、LGBTQセンターを訪れている。自らの過ちを認める潔さがあると言えよう。MMA選手の組合にも率先して主要メンバーになっていた。近年あらゆる所で見られる、言いたい放題に言ってワイルドさをアピールする連中と違って、実質が伴っている感じである。
セローニはタックルの形で足を取る姿勢も見せ、そこから左フックに繋げる動きも織り交ぜて攻撃。メデイロスは後ろ回し蹴りも見せるが、全体的に若干バランスを崩し気味の動きである。リードジャブを攻撃の起点にしているメデイロスに対し、セローニの入りは右フックからという動き方の違いがある。セローニはメデイロスのジャブに左ミドルを合わせたり、カウンターも狙う形。
セローニはケージ際に詰められそうになると、タックルのフェイクで押し戻して距離を保つ。ラウンド中盤、メデイロスが左フックを多用しはじめる。そして右オーバーハンドから左フックを出した際の隙に、セローニが右を顔にヒットさせ、メデイロスがフラッシュダウン。すると、立ち上がったメデイロスとセローニはさっき述べたハグを交わした。
セローニは今回、ボディからの左やストレートという、上下に打ち分けるコンビネーションを何度か使っていた。ボディでメデイロスの左のガードが下がることを見抜いた上で、KOをもたらす右を決めた(動画)。
いつもスロースターターのセローニは、今回は1Rからよく相手を見て打撃を出している感じであり、相当研究をしてきた様子がうかがえた。メデイロスもまたダレン・ティルのように上り調子の若手だったが、新勢力の台頭に対して意地を見せた。
しかし、試合後にセローニはメデイロスを自分の祖母の所へ行かせ、二人はハグしていた(セローニは所謂「おばあちゃんっ子」で有名だが、この行為でUFCに罰金を課されたようだ。しかし彼はやめるつもりはないと言っている)。メデイロスはインスタグラムにハグの写真をアップし、「これはエンターテインメントのビジネスだ…だが仕事は俺の人格を支配しない」「戦争の中でも、自分のアロハを与えなければならない」と書いている。色々考えさせられる痛快な連中であり、それを含めていい試合だったと思う。
大会全体としては、デリック・ルイス対マーチン・ティブラの「一発vs.グラウンド」といった感じのシーソーゲームも面白かったし、チアゴ・アウベスを葬り去ったカーティス・ミランダーの強さは際立っていた(他団体からの移籍直後にUFCで印象に残る勝利をした選手を久しぶりに見た)。なかなか見所の多かった大会と言えよう。