2017年12月18日月曜日

UFC on FOX 26:ローラーvs.ドス・アンジョス

サンチアゴ・ポンジニッビオvs.マイク・ペリー(UFC on FOX 26
ハファエル・ドス・サントスvs.ロビー・ローラー(同上)
カナダ・ウィニペグでのUFCファイトナイト。試合は1ラウンド早期KO決着(ノーディン・タレブダニー・ロバーツグローバー・テイシェイラミーシャ・サークノフ、そしてジョシュ・エメットリカルド・ラマス)か、さもなければフルラウンドとなる試合にハッキリ分かれた印象だ。
ただ見出しに挙げた二つの試合は後者で、フルラウンドにわたり削り合う試合となった(結果、この投稿もなかなかの長さになってしまった)。
マイク・ペリーといえば、UFCファイトナイト・ゲダンスクドナルド・セローニに勝利したダレン・ティルがオクタゴンインタビューを受けている際に、何故か笑、ケージに詰め寄って口論になったことで注目を浴びた選手だ。やんちゃ感のあるビッグマウス、さらに今回はテニスプレイヤーであるガールフレンドが彼をサポートしている様子が報道の全面に出ていた。いろいろと話題を提供しメディア映えする、ポストマクレガー的なタイプの選手である。
戦績はこれまで11勝1敗。アラン・ジョウバンに負けてはいるものの、ジェイク・エレンバーガーイム・ヒョンギュ等の選手に勝っている。
一方のサンチアゴ・ポンジニッビオはアルゼンチン出身の31歳。ブラジルで経験を積んだ後アメリカへ移り、現在はATTで練習。こちらはUFCファイトナイト・グラスゴーで、グンナー・ネルソンを82秒葬して強さを印象づけたベテランだ(25勝3敗だった)。ペリーは単なる通過点であり、この試合に勝ってベルトへの挑戦をアピールすると試合前から語っていた。
ちょうど注目の風が吹いてきた者同士のマッチメイクである。
1R。ペリーはどっしりした構えで前に圧力をかける。一方、ポンジニッビオはアウトボクシングで左右に回り、フットワークを使いつつペリーとの距離・角度を探る。ペリーは横蹴りなども交えながらポンジニッビオを追う。両者共に手は下げ気味、ウィービングで打撃を避ける構え。
ポンジニッビオ、膝下に当てる蹴り(ローレッグキック)を何度かヒットさせつつ、圧力をかけながら詰める。だがペリーも押し返し、プレッシャーの掛け合いという形がしばらく続く。ペリーの振りは鋭く、パンチ・蹴りでポンジニッビオが尻餅をついたりケージに詰める局面もあったが、大きなダメージはない。ペリーはボディワークを使い、かなり効果的にポンジニッビオの打撃をかわしていた。どちらかと言えばペリーのラウンドか。
2R、序盤でペリーは交錯後何か入ったのか、右目を抑えるも試合続行。ポンジニッビオのハイキックを捕まえケージに押し込むが、離れられる。左を当てたのをきっかけにもう一度ポンジニッビオを捕まえ、抑えようとするもなかなか抑え切れない。ポンジニッビオは基本動きながら打撃を繰り出し、下がりつつ&左右に動きつつ打撃を出してゆく。
残り2分頃、ポンジニッビオの左フックが当たりペリーが若干ぐらつくと一気に攻勢、左右のフックでペリーと殴り合う。その場は逃れたペリーだが、20秒後にまた左フックを顎に被弾。ケージ際まで詰められ打撃戦となる。ポンジニッビオは決め切れないが、その後もローレッグキックからのパンチコンビネーションを使ってペリーを削る。だがポンジニッビオが打ち疲れか少し下がるとペリーも押し返し、攻防が入れ替わりかかった所でラウンド終了。ペリーもタフだが、このラウンドはポンジニッビオ有利の場面が印象強い。
3R、出だしからポンジニッビオが出てくる。ジャブの打ち合いが続くが、ポンジニッビオはしばしばローレッグキックでペリーの出足を挫く。
しかしペリーの右オーバーハンドが当たり、ポンジニッビオが横を向いた所に距離を詰めて畳みかけようとした際、ポンジニッビオの(この試合何度か出していた)スピニングバックフィストが当たる。ペリーはうつぶせに屈み込むように倒れ、ポンジニッビオはそのまま抑え込む。何発か側頭部にパンチを入れるも、ペリー中腰に戻しケージ際へ移動。ポンジニッビオ、ペリーが立ち上がりかけた所に今度はタックルでテイクダウン。ペリーそこから立ち上がり、後ろを取った所でポンジニッビオが離れる。すると打撃から再びポンジニッビオがタックル、テイクダウンに成功。ペリーはもぐろうとするも不可能、ポンジニッビオの打撃を地味に受け続ける。両者離れるが、ポンジニッビオがラウンドを連打で締め、最後の5秒ほどは両手を広げて流した。
判定は三者29-28でポンジニッビオ。ペリーはタフな重戦車タイプ、かつ攻撃も多彩で今後も期待できる選手だが、ポンジニッビオが競り勝った。すでに新たな技術として定着したローレッグキックが要所で効いており、打撃とタックルへのレベルチェンジとを組み合わせて攻略したポンジニッビオが、一枚上手であることを見せた試合だった。
ハファエル・ドス・サントスロビー・ローラーについての余計な説明は要らないと思うが、ドス・サントスはライト級からウェルター級に上げて後、タレック・サフィジーヌニール・マグニーに二連勝し、今度はこの階級のチャンピオンに挑戦する真価が問われる一戦だ。公開計量では身長差が目立っており、実際大丈夫か?と思ってしまったのも事実である。
一方のローラーは、7月のセローニ戦前にジムを古巣のATTから、元ブラックジリアンのヘンリー・フーフト率いるHARD KNOCKS 365に移籍している。色々あったのだろうか? キャリア終盤の移籍はマット・ブラウンもそうだったが、新たな刺激とリスキーさが同居しているだけに、どういった変化がもたらされているのか興味深い所である。
これは余談だが、私は一ファンとしてジムごとの指導やスタイルの違い、そしてフィロソフィーの違いなどをどなたかがレポートしてくれることを切に願っている。今回ラマスをノックアウトしたエメットはもろにアルファメール・スタイルという感じだったが、そういう違いに切り込んだ取材があると、格闘技の観客の見方もぐんと広められる気がする。
アメリカのUFCの広報が巧妙な所は、カジュアルファンの増加と同時に、コアな観客の啓蒙・掘り起こしにも力を入れている点にある。どちらの層も狙うというのは、マーケティングの方法論にあるのだろう。しかしいずれにせよ、知識の啓蒙は、長く競技が支持される上で絶対に必要なものだということを分かっているのである。カジュアルファンだけでは脆いのだ。
それはともかく。試合ははじまってみると、ドス・アンジョスの体格を不利とは感じさせない展開となった。
1Rからドス・アンジョスはパンチの交錯中に左フックをヒットさせるなど、むしろローラー相手にプレッシャーをかける。遠距離では攻撃にローレッグキックと膝を狙うオブリークキックを取り混ぜ、距離が近くなると首相撲に移行し膝蹴りを入れるパターン。ローラーもケージ際に詰めてダーティボクシングの攻防に持ち込むが、ドス・アンジョスもクリンチと首相撲のテクニックを駆使して攻撃する。
2R、序盤でローラーは打撃戦を仕掛けるが、ドス・アンジョスのディフェンス能力も高く、攻め切らせない。ケージ中央に戻りドス・アンジョスが左フックから右ボディでローラーのみぞおちにパンチを入れると、ローラー下がる。そこからドス・アンジョスは膝蹴りを相手の顎に入れた後、ケージに詰めて23秒の間、パンチを全く休みなしに上下に連打し続ける(その数、ダニエル・コーミエの解説によれば48発)! 腹に膝蹴りも入れた後で攻撃は終わるが、驚嘆すべきスタミナである。ラウンド最後にローラーは若干盛り返すが、ドス・アンジョスの攻撃が目立った。ローラーはみぞおちという急所をやられた感じだ。
3Rは基本密着した展開。首相撲、テイクダウン、ダーティボクシングの攻防が支配的となる。ローラーは体格の有利さで削る作戦かも知れないが、ドス・アンジョスもあまりペースが落ちない。ラウンド残り一分でドス・アンジョスの右肘が入り、ローラーはケージの中央に尻餅をつき、そこをドス・アンジョスがトップで抑える展開となる。肘のパウンドを入れ続けた後、ラウンド終了。
4R 、序盤は押したローラーだが、明らかに腹に効いており、ドス・アンジョスの右ミドルを受けて下がり出す。ドス・アンジョスはじりじりと首相撲中心の展開に持ち込んでゆき、飛び膝蹴りも交え攻め続ける。ローラーはラウンド終了後、ケージにもたれかかるようになり、疲れを表しはじめる。
最終ラウンドはケージ際でドス・アンジョスがローラーをテイクダウン、ローラーは抱えるだけで膠着したため、レフェリー指示で立って再開。やはり密着した展開だが、ドス・アンジョスが優勢で5ラウンドの試合を終えた。判定は三者50-45のフルマークでドス・アンジョス勝利。ドス・アンジョスはタイロン・ウッドリーへ挑戦したいことを表明し、ベルトを獲る意欲を示した。
ローラー35歳、ドス・アンジョス33歳ということだが、両者とも凄まじいタフネスである。共に5Rをフルに戦う持久力を見せつけたが、そこでそもそもローラーのタフネス自体に着目し、それを削るためにボディを集中的に攻めたドス・アンジョスが競り勝った。
ムエタイの技術も当然ハイレベルだが、相手の長所を明確に認識し、それに狙いを定めて作戦を練っていたドス・アンジョス陣営のファイトIQの高さもまた示された試合だった。これは選手の特性をよく理解し、信頼関係が醸成されていなければ、実行が難しいものでもある気がする。この面で、ジムを移籍して間もないローラーは不利だったのかも知れない。