ジョゼ・アルドvs.ジェレミー・スティーブンス(UFCファイトナイト・カルガリー)
ダスティン・ポワリエvs.エディ・アルバレス(同上)
カナダのカルガリーで開催されたファイトナイトシリーズ。
このサイトでは大会の名称や人名表記がブレてしまっているのだが、今回はUFC on FOXのシリーズということで、日本語版のUFCサイトに合わせて「ファイトナイト・カルガリー」とする。
コ・メインの試合は
ジョゼ・アルド対
ジェレミー・スティーブンス。スティーブンスは長らく勝ったり負けたりの戦績だったが、
ギルバート・メレンデス、
チェ・ドゥホ、
ジョシュ・エメットといった面々を
3タテして勢いに乗っている。アップライトな構えでタイトな打撃、そして爆発力が持ち前のファイターだ。このファイトに勝って、ベルトを狙いたい試合である。
しかし私は個人的にアルドのファンなので、アルドについて語りたい。
コナー・マクレガー戦の前の舌戦とそれに続くわずか13秒の敗北以来、アルドの容貌が一気に老けた気がするが、おそらく精神的に様々なダメージを負ったのだろうと思われる。
マクレガーはアルドを精神的に追いつめ、また文句のつけようもない形で勝った。彼はその言動全てにおいてエポックメーキングな存在となったが、アルドがMMAシーンに現れてきた際も、その革新的なスタイルと並外れた攻撃力がやはり画期的なものであったことは忘れられるべきではない。
WEC時代の
ユライア・フェイバー戦でのローはあまりにも有名だが、身体能力は言うまでもなく、当時ちょうど
マット・ヒューズから
ジョルジュ・サンピエールという流れが「ボクシング+レスリング」をMMAのベーシックなスタイルとして確立してゆく中で、アルドは「ムエタイ+柔術」をベースに圧倒的な強さを見せた、異色のブラジリアンだった。
アップライトだが少し猫背、かつスタンスが後ろ重心ではない独特の構えから出される強烈な打撃。自分からはテイクダウンにほとんど行かないが、タックルを仕掛けられても決して倒されない膂力の強さと素早さ。
加えて、グラウンドになってもコントロールに長けているだけでなく、サブミッションゲームに行かずに打撃と一体化したコントロールテクニックを用いるという、それまでの「総合格闘技」の打撃面での最高峰レベルを組み合わせたような存在がアルドだったのであり、それは基本的に西欧圏の文化として定着しているレスリングを母体とした技術体系とは異なる強さを見せていた。
しかしマクレガー、そして
マックス・ホロウェイに苦渋を舐めさせられてからは、いつ見てもアルド自身の目つきには悲しみが漂っている感じになり、またアルドの存在に対する評価が不当に低くなってしまったような気がしていた。
だがアルドはまだ31歳であり、今日のMMAにおいてはまだ十分に現役として活躍できる年齢である。今回の相手であるスティーブンスは32歳であるが、この意味で試合は遅れてきた登り龍と、一度頂点を極めそこから転落した後に再び蘇りを期するものとの対決となったと言える。
ラウンド冒頭。どちらも先述したようにアップライト気味だが、アルドは両手を上げてガードするスタイル、スティーブンスは両手は下げ気味に構えている。スティーブンスはタックルのフェイク、アルドは左ハイを出してゆく。スティーブンス、ジャブから右ロー、アルドとの打撃の距離の探り合いが続く。打撃から組みに行く姿勢を見せるが、アルドが膝蹴りを見せて離れる。
スティーブンスはまた右ロー。その後、アルドは後ろ足重心をかけてムエタイ的なガードを見せるとスティーブンスは左ミドルを放ち、アルドはガードする。アルド、左前蹴りのフェイクからその足でスティーブンスの前足を払う。アルドの右ローに対し、スティーブンスの右フェイントからの左は空を切る。スティーブンスはフェイントを多用している。
距離が縮まるとアルドは体を入れ替え、ケージに詰められないようにする。互いに距離を慎重に測る中で、アルドの左アッパーから右フックが当たると、スティーブンスも右フックで応戦。互いにフックの打ち合いとなるが当たらず離れる。
再び距離の取り合いだが、アルドが右ローを入れた際にスティーブンスは右ストレートをヒットさせる。アルドはケージ際に詰められ、組みに行ったところをスティーブンスは突き放し、パンチを連打。アルドはボディワークとガードで防戦する。組みに行きながらパンチを出すと、スティーブンスも片手でアルドの首を抑えてアッパーを打つが、再び両者離れる。
ここで先ほどより距離が詰まり、アルドがスウェイでスティーブンスのジャブをかわしてゆく。今まではスティーブンスがプレッシャーをかけていたが、アルドがボディワークを使い、相手のパンチをかわしながら前に出てくるようになった。しばらくパンチの交換をした後、スティーブンスはこの主導権争いを奪還するためかスピニングバックフィストを出すも空振り。明らかに局面がアルドに移っている。
アルドは距離を詰めつつ、スティーブンスの左をかわして右オーバーハンドから左などのコンビネーションを出すようになり、プレッシャーをかけてゆく。残り1分強、スティーブンスは強引に左右の大きなアッパーとフックを連打して前に出てくるが、そのコンビネーションの合間にアルドは細かくジャブを入れ、スティーブンスが打ち終わったところで強烈な左ボディを打ち込む!
スティーブンスは一瞬苦悶の表情を浮かべて後ろに倒れ込む。そこにアルドが雨と降らせるパウンドを防いでいたが、アルドがバックを取りなおもパウンドを入れ続け、1R残り41秒でのレフェリーストップを呼び込んだ。
スティーブンスがアルドのボディを食らったのには、それまでのパンチに加えてジャブを(強弱交え)細かく出すという撒き餌があったからだということが、見直してみるとわかる。はじめはスティーブンスがプレッシャーをかけていた形だが、途中からアルドがスウェイで打撃を見切るようになると主導権が逆転。スティーブンスが焦って前に出てきたところに必殺のボディを打ち込むという、非常に緻密な試合をアルドが展開していたことがわかる。
しかし今回の衝撃的な決着は、アルドがトップコンテンダーとしての実力を保持していることを十分に示したと言える。試合後、慟哭していたアルドの姿がそれまでの苦闘を物語っているようで、印象的であった(
マクレガーもいいコメントをしている)。
アルドは次戦の希望に
ブライアン・オルテガの名前を挙げているようだが、もし実現したら、これも興味深い戦いとなるだろう。
メインの
ダスティン・ポワリエ対
エディ・アルバレスは、2017年3月に行われた
UFC211での対戦がアルバレスの4点ポジションへのヒザ攻撃によりノーコンテストとなっていたため、決着を付ける形での第2戦となった。
そういう意味で因縁の一戦だが、ともに
ジャスティン・ゲイジーに勝利しさらにトップ戦線を目指したい同士としての試金石的な一戦となった(アルバレスはあまり気乗りしていなかったようだが)。
1R。アルバレスはオーソ、ポワリエはサウスポー。互いに相手が出たら引く展開だが、一戦目があったせいか距離の読み合いというよりも、既に読めているなかで動いている感じがする。
互いにスイッチを入れつつ、ポワリエは軽い右フックやロー、アルバレスは左右ボディから上へとつなぐ動きを見せる。アルバレスはスピニングバックフィストを見せるのに対し、ポワリエは距離を詰めたり飛びヒザを見せたりと、互いに糸口を探る展開。アルバレスの左ミドルが当たるが、大きなダメージではない。ポワリエが脛蹴りをすると、アルバレスは少しバランスを崩すが元に戻す。アルバレス、ボディから上へのコンビネーションを見せる。片足タックルの形も見せるが、打撃中心の展開である。
ポワリエは時折左手を上げてぐるぐる回し、気を引いてから攻撃する。ポワリエは遠い距離からパンチを伸ばして当てようとするところ、アルバレスは軽くタックルに行くが、距離があるのですぐ両者離れる。
ポワリエは蹴りからパンチにつなげる動きが多い一方、アルバレスはタックルのフェイントを見せたり、ボディを振ってから上のパンチへつなげる形が何回か繰り返される。
1Rの最後にポワリエのジャブが当たり、それまで遠かった距離をポワリエが掴むと前に出てくる。それにアルバレスが応戦してやはり前に出、ラウンド最後はパンチの出し合いで終わった。
2R、アルバレスはローからアッパー・フックのコンボと距離を詰め、再びスピニングバックフィストも見せる。ポワリエが左ハイを放ったところその足を抱えてポワリエのバランスを崩させ、頭を抱えギロチンに行きかけるが、ポワリエはそれを外し離れた。
このラウンドはアルバレスが最初から前に出てくる。ポワリエをケージ際に詰めるとタックルの形を見せるが、そこで
ポワリエがアルバレスの首をとってギロチンをかけ、後ろ向きに倒れこむ。しかし、足でアルバレスの体をホールドできない。そこで逆にアルバレスがポワリエの足をまとめて動けなくして、ギロチンをほどいた。そのままケージにポワリエを押し付けるが、ポワリエ立ち上がると、両者は手の位置の取り合いをしながら離れた。
その直後、アルバレスが両足タックルを仕掛け、再びポワリエがギロチンの形でアルバレスの首を抱えて下になる。しかしすぐ外れて、ケージ際でガードポジションになる。アルバレスはちょうどポワリエの首をケージに押し付けポワリエを丸めてパウンド、それを逃れたポワリエのバックに回ってネッククランクを仕掛ける。
しかし決まりきらず、ポワリエが下から細かなパンチを出すと、アルバレスがポワリエを起こさせて座った姿勢で再びネッククランク。そこでポワリエが向き合おうとしたところを浴びせ倒し、ケージ際でのマウント姿勢を奪った。
さてここからが問題の展開である。アルバレスはポワリエの足をまとめてケージ際に座った姿勢で詰め、身動きをとれなくした状態で側頭部にパンチを出す。しかしこの際、ポワリエの左耳を掴んで頭を動けなくさせており、レフェリーのマーク・ゴダードに指摘される。
するとアルバレスはセコンドのマーク・ヘンリーからの指示で縦ヒジをポワリエの肩に見舞うが、垂直方向へのヒジはルールにより反則のため、レフェリーがアルバレスを止めて両者を立たせた。
スタンドに戻った両者だが、ポワリエが左ストレートを当て、アルバレスがボディを2発ポワリエに放つ。
しかしアルバレスがタックルのフェイントを見せた後で右のオーバーハンドを出した際、上半身が下向きになったタイミングでポワリエが膝蹴りを放つと、上体が低くなっていたアルバレスに見事に命中。これで形勢が逆転した。
ポワリエはパンチの連打を出して当ててゆくとアルバレスがずるずると後退し、ケージ際で防戦一辺倒になる。アルバレスは左やアッパーを出して離そうとするが、ポワリエは左ハイを交えつつ、低くなったアルバレスの頭を抱えて膝蹴りを見舞いつつ、さらに連打を加える。
左右のフック、ヒザ、左ハイを交えながらガード一方のアルバレスを攻め立て、最後は左肘を側頭部に見舞うとアルバレスは崩れ落ち、レフェリーが試合を止めた。
最初一瞬、マーク・ゴダードが誤審しちゃったかな?と疑ってしまったが、これはルール通りの判定であり、アルバレスの縦ヒジは紛れもなくルール上の反則であった(
カマル・ウスマンが
ツイッターでゴダードを罵ったが、後でゴダードの正しさを認めて釈明している)。しかしそれだけではなく、ゴダードはアルバレスがポワリエの耳をつかんでいたことも直前に注意していたため、両者をすぐ立たせたのだという。
両者の第一戦ではアルバレスの4点ヒザでノーコンテストになっているし、耳をつかんでいたこともあるので、アルバレスはルールを知っていないというよりもルールの穴をつくダーティな戦い方を好む選手なのだろう。計量問題にしろ、最近は制裁があろうとルールに関係なく「勝った者勝ち」だという傾向が強かったと思うが、今回はそれが完全に裏目に出た結果、アルバレスは負けた感じである。
思えば以前、
マクレガーがベラトールでルールを無視してケージに乱入した際にもゴダードは毅然とした態度を取っていたが、レフェリーの判断がしっかりしていればいるほど、試合のフェアネスにも信頼度が上がるというものだ。最近は
日本ボクシング連盟会長の不正疑惑で奈良出身の選手を優遇する「奈良判定」などという話も出ているが、一瞬の人生の縮図でもある試合だからこそ、優遇措置やアンフェアな裁定などない結果こそが望まれるべきだ。
試合で見たいのは世間などではなく、生き様なのだから。
※追記 ポワリエは
ネイト・ディアスとの次戦がUFC230で決まったとのこと。