2018年8月31日金曜日

UFCファイトナイト・リンカーン:ゲイジーvs.ヴィック

ジャスティン・ゲイジーvs.ジェームズ・ヴィック(UFCファイトナイト・リンカーン
前の大会からしばらく間が空き、ネブラスカ州リンカーンで開催されたファイトナイトシリーズ135。
前前座(エクスクルーシブ・プレリミナリーファイト)ではハニ・ヤーヤ(ヤヒーラ)ドリュー・ドーバージョアンヌ・カルダーウッドがそれぞれ見事な勝利を収めた。ヤーヤは前回の試合とは打って変わり、試合後に堂々とTJ・ディラショーへの挑戦権を主張したが、実現するかはともかく、サブミッションで魅せられる試合ができる自信が出ているのかもしれない。チームをATTに移籍して練習環境が良くなったことも後押ししているようだ。
プレリムでもミッキー・ガル(ガウ)ジェームス・クラウスなどが派手な勝ち方の試合をして盛り上がっていたが、個人的にはコーリー・サンドハーゲンユーリ・アルカンタラの試合が興味深かった。
アルカンタラが序盤で腕ひしぎ十字固めを完全に極めた形に持ち込んだが、サンドハーゲンは関節が柔らかいタイプなのか効かない風で逆転し、後はパウンドで攻め続け、アルカンタラを2Rで葬った。
関節が柔らかく極められないこと自体は稀にあるので最大の驚きではなく(驚いたが)、サンドハーゲンがアルカンタラの上をとってから全然ポジションを奪われず、パウンドを休みなく打ち込み続けた技術と鋭さの方が驚きであった。アルカンタラというベテランがそこから何もできなかった点も衝撃であった。
サンドハーゲンは見た感じ、そこまでレスラー的ではない。その系の押さえ方ではない形でアルカンタラの柔術的な動きをことごとく捌いて無効化し、威力のあるパウンドを絶え間なく打ち続けていた点、ちょっとショックを受ける試合であった。
メインカードは元アメフト選手エリク・アンダースや、ブラジルのデイヴソン・フィギュイレードなどの勝利が印象的だった。フィギュイレードは公式記録全勝の選手で、ジョン・モラガを終始パワフルに圧倒していた。次には更に上がってくるファイターだろう。
フィギュイレード(右)は年齢不詳なルックスだが、目力も相当だ。試合後インタビューは通訳(左)が前に出過ぎていて、しかも意訳しまくりで何を言っているのか正直わからなかったが笑。アクの強さでどことなく「常識外」的な雰囲気を漂わせる選手である。
しかし全体的に、今回はジェイク・エレンバーガーの敗戦と引退といい、中堅どころのベテラン選手勢が揃って負け、その下にいた新鋭の選手たちが存在感を示した大会であった。
トリの試合はジャスティン・ゲイジージェームズ・ヴィックであった。
ゲイジーはエディ・アルバレスダスティン・ポワリエ(ポイエー)に2連敗し、移籍後にマイケル・ジョンソンとの死闘で得ていた評価が「UFCのトップ戦線では勝てないのでは」という形に落ちていたので、今回はカド番的要素のある試合だった。本人も、この試合に負けるようなら引退を考えると事前に語っていた。
一方のヴィックはだいぶ前からUFCに在籍しており、負けも一敗のみだった選手だが、確か怪我の影響もあって大きな名のある相手と試合ができないでいた。今回はその念願叶っての試合である。
しかし、試合は想像を超えた短期決着となった。
1R冒頭、共にオーソの構えだが、身長差とリーチではるかに勝るヴィックはローやサイドキック、前蹴りと伸びるジャブで距離をとろうとする。それに対しゲイジーはローを放ちつつ、左ボディストレートを出し、距離が詰まったらオーバーハンドのワンツーを狙う。
ヴィックが左ミドルを出すとゲイジーは両手でブロック。じりじりケージ際に詰めるとゲイジーはやはり左右のオーバーハンド、さらに左のパンチでヴィックに攻撃するが、そこで離れ再びヴィックは前蹴りで距離を制する。左ミドルをやはりゲイジーが前と同じく両手でブロックするとヴィックはもう一度素早くミドル、これはゲイジーの腹に入った。
ところがゲイジー、ローを返すと再びヴィックに詰めてゆき、ヴィックがケージ際まで下がったところでまたも左(これは意識をそらせるための平手打ちだった)から右オーバーハンドを出すと、その右がヴィックの顎にクリーンヒット! ヴィックは斜め横にゆっくり崩れ落ち、これで試合が決まった。
ゲイジーはこれで連敗に歯止めをかけた形だが、若干攻撃が単純だったのが少し気になるところだ。ヴィックのミドルは効いていたし、最後の一瞬まではヴィックが試合を組み立てていた感じもした。
しかしゲイジーの特徴は、持ち込んだ乱打戦で全く下がらず、根負けして下がり出した相手に対し強力な馬力を出して競り合い、打ち勝つスタイルにある(ここら辺が「やりすぎ」と言われる所以だろう…確かに選手生命的を長くはできないスタイルだ)。
最後まで下がらなかったアルバレスやポイエーに対しては土をつけられたものの、ヴィックのように自ら距離をとって下がるタイプに対しては、苦手意識が全然ないのかもしれない。
次戦の希望にトニー・ファーガソンを指名していたが、実現するかどうか。ファーガソンの怪我の回復にもよるだろうが、ファーガソンも粘りの選手であり、自分のアリ地獄に引きずりこんで勝つスタイルなので、どちらが競り勝つか見て見たいところである。

2018年8月7日火曜日

UFC227:ディラショーvs.ガーブランド2

ヘンリー・セフードvs.デメトリアス・ジョンソンUFC227
TJ・ディラショーvs.コーディ・ガーブランド(同上)
ロサンゼルスのステープルセンターで開催されたナンバーシリーズ。
やはりヘンリー・セフードデミトリアス・ジョンソンのリマッチに触れない訳にはいかない。初戦はDJの膝がセフードのみぞおちを直撃して、DJの文句なしの勝利だった。今回はMMAの経験を積んだセフードがどれほどDJ相手に自力を発揮できるのかが焦点だったと言える。
全部書いていると長くなるので、ラウンド毎のざっくりとした印象のみ。
1RはDJが蹴り主体で攻め、2Rはセフードの足を取るも、やはり金メダリストは倒せない。セフードは時折、足を取ることをフェイクで入れたりするが、中盤まで打撃勝負。終盤に内掛けからテイクダウンをして上を取るが、そのまま終わり。
3Rも組むとさすがにセフード強く、崩しかけるが四つでしばらく膝の打ち合いのシーンが続く。終盤ではスクランブルもあり、レスリングではDJも負けてない。このラウンド終わりにDJは出した膝蹴りをつかまれたのを切るが、この動きでおそらく膝を痛めたように見える(試合後、前十字靭帯を痛めたと言っていた)。
4R、積極的にDJは打撃を出すがやはり運足に乱れが見られる。DJは基本回っては打撃だが、やはり中盤でテイクダウンされる。
5R、DJは積極的に前に出るが、やはりセフードを打ち崩せない。残り2分でセフードがタックルに行き、ケージ際でバックを取る。DJ差し返すもセフードテイクダウン、DJ離れて立ち上がり、パンチの応酬。DJはハイなど出すも決定打には欠ける。
再びセフードがテイクダウンを狙ってきたところをDJが切り、互いにもう一度パンチ連打を出し合ったところで試合が終了した。
結果は2-1のスプリットでセフードの勝利。DJの14連勝目の記録達成とはならなかった。打撃の面ではあまり差がないように見えたので、テイクダウンが判定にカウントされたのだろう。
セフードはレスリング+空手という少数派のスタイルだが、遠い間合いで相手の打撃を外し、近づく時は打撃かテイクダウン狙いかがハッキリしている。打撃の決定力については、まだ伸びしろがありそうである。
DJの万能ぶりとこれまでの勝利については改めて語るまでもないのだが(レイ・ボーグ戦のアームバーはマジカルだった)、怪我も含め、ここで一マス休みという所だろうか。ジョセフ・ベナビデスジョン・ドッドソンといった選手たちも全て退けてきたDJだが、これで軽量級のランキングは今後一気に流動化してくるかもしれない(ドッドソンは階級を上げているが)。
しかし、セフード対堀口恭司が見てみたかった所だな…と一瞬考えてしまったのは、私だけではないだろう。
TJ・ディラショーコーディ・ガーブランドの再戦は、第一戦が倒し倒されながらの現代MMA最前線という感じの試合だったので、今回も超期待大であった。TJのアルファメール脱退関連の煽りも再度ないではなかったが、それよりもむしろ年齢・勢い的に「乗っている」両者同士の高度な戦いを、観客も望んでいたのではないだろうか。
試合前にTJが差し出したグラブをガーブランドが無視して、1R開始。TJは両手を下げて左右に動きながら上体を傾け、相手の隙をうかがうのに対して、ガーブランドはじりじり前に出て追ってゆく展開。序盤は蹴りの探り合いからはじまる。
TJの構えは非常に低い。頻繁にスタンスの左右を変えながら、左ジャブ・右ハイを出し、ローを打ってゆく。するとガーブランドは3連打からの右ハイを返すが、互いにかわす。
ガーブランドのローの後、互いにジャブを打ち合い、TJは左右フックの連打で入ってゆくがガーブランドは体を入れ替え、オクタゴン中央に戻る。
TJは出入りしつつ右フック。ガーブランドが一度離れ再び近づいた所でTJは右を見せ、ダッキングから左ミドルを出すとヒットする。これにガーブランドは右パンチで返す。
TJ左ミドル、左ロー。右手を額に当てて低い姿勢を保つ独特の構え。ガーブランドの右ミドルを右手で捌くと、右を出すが、ガーブランドそれをかわして左右連打。TJ離れる。ガーブランド近づいて右ストレートを出すとヒットし、TJ少し下がる。しかしTJも右を返している。
TJ、スタンスをサウスポーにセット、ガーブランドの右ミドルを抱えようとする姿勢から右ローを出す。タックルフェイントを見せ、離れた所にバックブローを出すが空振り。ガーブランドは「それがどうした」とばかりに直立ポーズを示す。
ガーブランド、右ミドル。TJは再びタックルフェイントからの左インロー。TJが構えをオーソに戻して右ローを出した際、ガーブランドがその足を取りつつ右ストレートを出すと、TJが前にバランスを崩す。抑えにいったガーブランド、バックに回りTJの側頭部にパンチを当てながら立つ。右左のパンチを連打するが、TJはガードしている。
ここからが第一のクライマックスであった。
追ってゆくガーブランド、やはり左右のフック連打を見せるが、TJが左に体を傾けながら右フックを思い切り振ると命中。ガーブランド、応戦してやはり右フックを出すが、TJは同じ右をさらに二連続で強く出し、全てガーブランドに命中させるとガーブランドは尻餅をついた。
下がるガーブランドの首を抑え、TJはバックに回る。ガーブランドが中腰で立つと、そこにパウンドの雨を降らせる。ガーブランド離れ、TJは左右に動いてジャブから右ミドル、ガーブランドはやはり右左のフックを出すも、両者離れる。
TJ、右ハイから左ロー、ジャブに繋げる。再びオーソの構えに戻し、右を出すとガーブランドも左で応戦し、さらに右フックを出す。ガーブランドはケージ際に詰められてゆき、TJがタックルフェイントを見せるとガーブランドはタックル姿勢から右を出すが、そこにTJは右フックを合わせる。ガーブランドふらつきながらケージまで下がり、跳ね返ってきたところにTJが右フックを合わせるとガーブランドダウン! TJはバックを取り、再びパウンドの嵐を注ぐ。
ガーブランドはケージ際まで逃れようとするも、立ち上がったところで膝蹴り、そして左右の連打をTJが叩き込んだ所でレフェリーのハーブ・ディーンが試合を止め、TKOとなった。
1Rでどれだけ多くの攻防があることか! 細かく書いてゆくときりがない。
だが、試合後にTJが語ったところによると、ガーブランドの弱点として「右を出す際には左のガードが下がっていること」が指摘されていた。ラウンド中盤で出した相手の右に合わせての右三連打は、彼が確実に戦略を実行したことをうかがわせていた。
TJ、ガーブランドともに野性味と倒し切る強さを持っている選手だが、やはりTJの強みの一つにドゥエイン・ラドウィッグの指導があることは確かだろう。試合は個人の能力だけではなく、コーチやチームと作り上げるものであることを実感させられた結果である。
「知能は本能化されてはじめて知能になる」(大意)という言葉もあるが、単なる知識ではなく、自分のものとして動きの中に練り込まれてこそ「知能」が発揮されるのであるとすれば、そのハイレベルなあり方の一つが見られたと言ってよいのかもしれない。

2018年8月3日金曜日

UFCファイトナイト・カルガリー:アルバレスvs.ポワリエ2

ジョゼ・アルドvs.ジェレミー・スティーブンス(UFCファイトナイト・カルガリー
ダスティン・ポワリエvs.エディ・アルバレス(同上)

カナダのカルガリーで開催されたファイトナイトシリーズ。
このサイトでは大会の名称や人名表記がブレてしまっているのだが、今回はUFC on FOXのシリーズということで、日本語版のUFCサイトに合わせて「ファイトナイト・カルガリー」とする。
コ・メインの試合はジョゼ・アルドジェレミー・スティーブンス。スティーブンスは長らく勝ったり負けたりの戦績だったが、ギルバート・メレンデスチェ・ドゥホジョシュ・エメットといった面々を3タテして勢いに乗っている。アップライトな構えでタイトな打撃、そして爆発力が持ち前のファイターだ。このファイトに勝って、ベルトを狙いたい試合である。
しかし私は個人的にアルドのファンなので、アルドについて語りたい。コナー・マクレガー戦の前の舌戦とそれに続くわずか13秒の敗北以来、アルドの容貌が一気に老けた気がするが、おそらく精神的に様々なダメージを負ったのだろうと思われる。
マクレガーはアルドを精神的に追いつめ、また文句のつけようもない形で勝った。彼はその言動全てにおいてエポックメーキングな存在となったが、アルドがMMAシーンに現れてきた際も、その革新的なスタイルと並外れた攻撃力がやはり画期的なものであったことは忘れられるべきではない。
WEC時代のユライア・フェイバー戦でのローはあまりにも有名だが、身体能力は言うまでもなく、当時ちょうどマット・ヒューズからジョルジュ・サンピエールという流れが「ボクシング+レスリング」をMMAのベーシックなスタイルとして確立してゆく中で、アルドは「ムエタイ+柔術」をベースに圧倒的な強さを見せた、異色のブラジリアンだった。
アップライトだが少し猫背、かつスタンスが後ろ重心ではない独特の構えから出される強烈な打撃。自分からはテイクダウンにほとんど行かないが、タックルを仕掛けられても決して倒されない膂力の強さと素早さ。
加えて、グラウンドになってもコントロールに長けているだけでなく、サブミッションゲームに行かずに打撃と一体化したコントロールテクニックを用いるという、それまでの「総合格闘技」の打撃面での最高峰レベルを組み合わせたような存在がアルドだったのであり、それは基本的に西欧圏の文化として定着しているレスリングを母体とした技術体系とは異なる強さを見せていた。
しかしマクレガー、そしてマックス・ホロウェイに苦渋を舐めさせられてからは、いつ見てもアルド自身の目つきには悲しみが漂っている感じになり、またアルドの存在に対する評価が不当に低くなってしまったような気がしていた。
だがアルドはまだ31歳であり、今日のMMAにおいてはまだ十分に現役として活躍できる年齢である。今回の相手であるスティーブンスは32歳であるが、この意味で試合は遅れてきた登り龍と、一度頂点を極めそこから転落した後に再び蘇りを期するものとの対決となったと言える。
ラウンド冒頭。どちらも先述したようにアップライト気味だが、アルドは両手を上げてガードするスタイル、スティーブンスは両手は下げ気味に構えている。スティーブンスはタックルのフェイク、アルドは左ハイを出してゆく。スティーブンス、ジャブから右ロー、アルドとの打撃の距離の探り合いが続く。打撃から組みに行く姿勢を見せるが、アルドが膝蹴りを見せて離れる。
スティーブンスはまた右ロー。その後、アルドは後ろ足重心をかけてムエタイ的なガードを見せるとスティーブンスは左ミドルを放ち、アルドはガードする。アルド、左前蹴りのフェイクからその足でスティーブンスの前足を払う。アルドの右ローに対し、スティーブンスの右フェイントからの左は空を切る。スティーブンスはフェイントを多用している。
距離が縮まるとアルドは体を入れ替え、ケージに詰められないようにする。互いに距離を慎重に測る中で、アルドの左アッパーから右フックが当たると、スティーブンスも右フックで応戦。互いにフックの打ち合いとなるが当たらず離れる。
再び距離の取り合いだが、アルドが右ローを入れた際にスティーブンスは右ストレートをヒットさせる。アルドはケージ際に詰められ、組みに行ったところをスティーブンスは突き放し、パンチを連打。アルドはボディワークとガードで防戦する。組みに行きながらパンチを出すと、スティーブンスも片手でアルドの首を抑えてアッパーを打つが、再び両者離れる。
ここで先ほどより距離が詰まり、アルドがスウェイでスティーブンスのジャブをかわしてゆく。今まではスティーブンスがプレッシャーをかけていたが、アルドがボディワークを使い、相手のパンチをかわしながら前に出てくるようになった。しばらくパンチの交換をした後、スティーブンスはこの主導権争いを奪還するためかスピニングバックフィストを出すも空振り。明らかに局面がアルドに移っている。
アルドは距離を詰めつつ、スティーブンスの左をかわして右オーバーハンドから左などのコンビネーションを出すようになり、プレッシャーをかけてゆく。残り1分強、スティーブンスは強引に左右の大きなアッパーとフックを連打して前に出てくるが、そのコンビネーションの合間にアルドは細かくジャブを入れ、スティーブンスが打ち終わったところで強烈な左ボディを打ち込む!
スティーブンスは一瞬苦悶の表情を浮かべて後ろに倒れ込む。そこにアルドが雨と降らせるパウンドを防いでいたが、アルドがバックを取りなおもパウンドを入れ続け、1R残り41秒でのレフェリーストップを呼び込んだ。
スティーブンスがアルドのボディを食らったのには、それまでのパンチに加えてジャブを(強弱交え)細かく出すという撒き餌があったからだということが、見直してみるとわかる。はじめはスティーブンスがプレッシャーをかけていた形だが、途中からアルドがスウェイで打撃を見切るようになると主導権が逆転。スティーブンスが焦って前に出てきたところに必殺のボディを打ち込むという、非常に緻密な試合をアルドが展開していたことがわかる。
しかし今回の衝撃的な決着は、アルドがトップコンテンダーとしての実力を保持していることを十分に示したと言える。試合後、慟哭していたアルドの姿がそれまでの苦闘を物語っているようで、印象的であった(マクレガーもいいコメントをしている)。
アルドは次戦の希望にブライアン・オルテガの名前を挙げているようだが、もし実現したら、これも興味深い戦いとなるだろう。
メインのダスティン・ポワリエエディ・アルバレスは、2017年3月に行われたUFC211での対戦がアルバレスの4点ポジションへのヒザ攻撃によりノーコンテストとなっていたため、決着を付ける形での第2戦となった。
そういう意味で因縁の一戦だが、ともにジャスティン・ゲイジーに勝利しさらにトップ戦線を目指したい同士としての試金石的な一戦となった(アルバレスはあまり気乗りしていなかったようだが)。
1R。アルバレスはオーソ、ポワリエはサウスポー。互いに相手が出たら引く展開だが、一戦目があったせいか距離の読み合いというよりも、既に読めているなかで動いている感じがする。
互いにスイッチを入れつつ、ポワリエは軽い右フックやロー、アルバレスは左右ボディから上へとつなぐ動きを見せる。アルバレスはスピニングバックフィストを見せるのに対し、ポワリエは距離を詰めたり飛びヒザを見せたりと、互いに糸口を探る展開。アルバレスの左ミドルが当たるが、大きなダメージではない。ポワリエが脛蹴りをすると、アルバレスは少しバランスを崩すが元に戻す。アルバレス、ボディから上へのコンビネーションを見せる。片足タックルの形も見せるが、打撃中心の展開である。
ポワリエは時折左手を上げてぐるぐる回し、気を引いてから攻撃する。ポワリエは遠い距離からパンチを伸ばして当てようとするところ、アルバレスは軽くタックルに行くが、距離があるのですぐ両者離れる。
ポワリエは蹴りからパンチにつなげる動きが多い一方、アルバレスはタックルのフェイントを見せたり、ボディを振ってから上のパンチへつなげる形が何回か繰り返される。
1Rの最後にポワリエのジャブが当たり、それまで遠かった距離をポワリエが掴むと前に出てくる。それにアルバレスが応戦してやはり前に出、ラウンド最後はパンチの出し合いで終わった。
2R、アルバレスはローからアッパー・フックのコンボと距離を詰め、再びスピニングバックフィストも見せる。ポワリエが左ハイを放ったところその足を抱えてポワリエのバランスを崩させ、頭を抱えギロチンに行きかけるが、ポワリエはそれを外し離れた。
このラウンドはアルバレスが最初から前に出てくる。ポワリエをケージ際に詰めるとタックルの形を見せるが、そこでポワリエがアルバレスの首をとってギロチンをかけ、後ろ向きに倒れこむ。しかし、足でアルバレスの体をホールドできない。そこで逆にアルバレスがポワリエの足をまとめて動けなくして、ギロチンをほどいた。そのままケージにポワリエを押し付けるが、ポワリエ立ち上がると、両者は手の位置の取り合いをしながら離れた。
その直後、アルバレスが両足タックルを仕掛け、再びポワリエがギロチンの形でアルバレスの首を抱えて下になる。しかしすぐ外れて、ケージ際でガードポジションになる。アルバレスはちょうどポワリエの首をケージに押し付けポワリエを丸めてパウンド、それを逃れたポワリエのバックに回ってネッククランクを仕掛ける。
しかし決まりきらず、ポワリエが下から細かなパンチを出すと、アルバレスがポワリエを起こさせて座った姿勢で再びネッククランク。そこでポワリエが向き合おうとしたところを浴びせ倒し、ケージ際でのマウント姿勢を奪った。
さてここからが問題の展開である。アルバレスはポワリエの足をまとめてケージ際に座った姿勢で詰め、身動きをとれなくした状態で側頭部にパンチを出す。しかしこの際、ポワリエの左耳を掴んで頭を動けなくさせており、レフェリーのマーク・ゴダードに指摘される。
するとアルバレスはセコンドのマーク・ヘンリーからの指示で縦ヒジをポワリエの肩に見舞うが、垂直方向へのヒジはルールにより反則のため、レフェリーがアルバレスを止めて両者を立たせた。
スタンドに戻った両者だが、ポワリエが左ストレートを当て、アルバレスがボディを2発ポワリエに放つ。
しかしアルバレスがタックルのフェイントを見せた後で右のオーバーハンドを出した際、上半身が下向きになったタイミングでポワリエが膝蹴りを放つと、上体が低くなっていたアルバレスに見事に命中。これで形勢が逆転した。
ポワリエはパンチの連打を出して当ててゆくとアルバレスがずるずると後退し、ケージ際で防戦一辺倒になる。アルバレスは左やアッパーを出して離そうとするが、ポワリエは左ハイを交えつつ、低くなったアルバレスの頭を抱えて膝蹴りを見舞いつつ、さらに連打を加える。
左右のフック、ヒザ、左ハイを交えながらガード一方のアルバレスを攻め立て、最後は左肘を側頭部に見舞うとアルバレスは崩れ落ち、レフェリーが試合を止めた。
最初一瞬、マーク・ゴダードが誤審しちゃったかな?と疑ってしまったが、これはルール通りの判定であり、アルバレスの縦ヒジは紛れもなくルール上の反則であった(カマル・ウスマンツイッターでゴダードを罵ったが、後でゴダードの正しさを認めて釈明している)。しかしそれだけではなく、ゴダードはアルバレスがポワリエの耳をつかんでいたことも直前に注意していたため、両者をすぐ立たせたのだという。
両者の第一戦ではアルバレスの4点ヒザでノーコンテストになっているし、耳をつかんでいたこともあるので、アルバレスはルールを知っていないというよりもルールの穴をつくダーティな戦い方を好む選手なのだろう。計量問題にしろ、最近は制裁があろうとルールに関係なく「勝った者勝ち」だという傾向が強かったと思うが、今回はそれが完全に裏目に出た結果、アルバレスは負けた感じである。
思えば以前、マクレガーがベラトールでルールを無視してケージに乱入した際にもゴダードは毅然とした態度を取っていたが、レフェリーの判断がしっかりしていればいるほど、試合のフェアネスにも信頼度が上がるというものだ。最近は日本ボクシング連盟会長の不正疑惑で奈良出身の選手を優遇する「奈良判定」などという話も出ているが、一瞬の人生の縮図でもある試合だからこそ、優遇措置やアンフェアな裁定などない結果こそが望まれるべきだ。
試合で見たいのは世間などではなく、生き様なのだから。

※追記 ポワリエはネイト・ディアスとの次戦がUFC230で決まったとのこと。

2018年8月1日水曜日

UFCファイトナイト133:ドス・サントスvs.イワノフ/UFCファイトナイト134:ショーグンvs.スミス

ジュニオール・ドス・サントスvs.ブラゴイ・イワノフ(UFCファイトナイト133
アンソニー・スミスvs.マウリシオ・「ショーグン」・ルア(UFCファイトナイト134
今回も二大会まとめて(UFCファイトナイト135については日を改めてまた掲載したい)。
前者はアイダホ州ボワシーで開催されたファイトナイトシリーズ。カビブ・ヌルマゴメドフの親類のサイード・ヌルマゴメドフの出場、ダレン・エルキンスエディ・ワインランドというベテラン勢の敗北と、ドーピングの制裁期間が明けたチャド・メンデスの復帰が話題になっていたが、セージ・ノースカットザック・オットーに1Rは押さえ込まれるも2Rにケージ際の打撃で勝利し、大会後に話題となって株を上げていた。
最近のダナ・ホワイト・チューズデー・ナイト・ファイト・コンテンダー・シリーズでもそうだが、契約選手を見つけること自体をショー化するのはTUFシリーズからのお家芸だ。日本の格闘代理戦争シーズン2もそうだが、リアリティショー的あるいはかつての「ガチンコ!」的な番組は、試合だけでは伝わってこない舞台裏もショーとして示すことで面白いし、感情移入もしやすくなる。
しかし難点もある。アメリカでも日本でも、そこで取り立てられた選手達がその後活躍している確率はそれほどには高くないのではないか(もちろんディエゴ・サンチェスのような選手もいるが)。TUFは比較的歴史があり今やある程度戦績がある人しか出てこないし、昔の「ボクシング予備校」の飯田覚士のような存在もいるが、入り口のところで使い潰してしまう性質がある気がしてならない。
そういう意味で、言うまでもないが「育てる」のはあくまで所属ジムであり、真の意味での新人育成はショーの主催団体にはやれない、ということだろう(UFCファイトインスティテュートのような設備は凄いと思うが、強い選手をそこで練習させても今のところ結果が出ていない)。
長い目で見ると、格闘代理戦争2では負けてしまった葛西和希やスソンのように、負けても所属しているチームの環境次第で、当然ながら後々戦績が逆転する可能性は十二分にあることは間違いない。
この点、セージ・ノースカットはまさにダナ・ホワイトのフェイバリットとして一本釣りされた第一号だったが、ブライアン・バルバリーナミッキー・ガルに敗北した時点で、ちょっと光が消えかけていた。ジムもトライスターなどを渡り歩いていたが、チーム・アルファメールに腰を落ち着けてから三連勝と結果が出てきたようである。相性というのは難しいが、この意味で個人の勝負である格闘技と言えども、チーム戦でもあると思う。
ちなみにノースカットはヨエル・ロメロと並んでUFC選手の中では最もバキバキの見栄えがする体で、ボディビル界でも人気の様子である。
ジュニオール・ドス・サントスブラゴイ・イワノフについては、5R終始ドス・サントスの距離で試合が進み、イワノフは実質上何もできなかったと言ってよい。ドス・サントスの判定勝ち。
正直ちょっと語りにくい試合で(更新が遅くなったのはそのせい…という言い訳だが)、ドス・サントスは蹴りも交えるが、リーチの差を活かして終始ボクシングに徹する。イワノフはそこに打撃で応戦しようとするのだが、まず距離が完全にドス・サントスに支配されているので有効打はほとんどなかった。
かといってドス・サントスが相手を倒すまでも行かず、いわば立ちの猪木アリ状態とでもいったところか。戦績を見ると、相手が打撃型の選手だと勝っても負けてもKOなのだが、グラップリング系から来た選手に対してはフルラウンドで判定勝利が多くなっている(イワノフはコンバット・サンボ出身、エミリヤーネンコ・ヒョードルを下したことで有名だが)。
確かにドス・サントスのパンチはスピードもパワーも図抜けたものがあるのだが、今ひとつ「総合」の面白味に欠ける試合になってしまう点が物足りないところだ。とはいってもこれからドス・サントスがスタイルを変えるとは考えにくいが。
ファイトナイト134の方はドイツ・ハンブルグで開催されたが、メイン以外ではナズラ・ハクパラストマーク・ディケイシーのファイトが個人的に良かった。ハクパラストはアフガニスタン出身でドイツで学んでいる(いた?)選手だが、現在はトライスタージムとキングスジムを掛け持ちしているようだ。スピーディーに繰り出されるコンビネーションと全体のプレッシャの強さにより、ディケイシーを判定で下した。
肥満児だったことからMMAをはじめた選手らしいが、がっしりした体格でどことなくケルヴィン・ガステラムを彷彿とさせる動きも面白い。当然だが、MMAに有利な体型は決まっておらず(リーチの長さは大きいと思うが)、体型・体質に合った戦い方の習得が重要なのだと思わされる。
メインのアンソニー・スミスマウリシオ・「ショーグン」・ルアは1Rで終わってしまった。
スミスはチアゴ・サントスに敗れているものの、爆発力のあるスタイルと威圧感のあるルックスで、おそらくUFCのフェイバリットな選手である。ヴォルカン・オズデミアの欠場に代わり、ショート・ノーティスでの出場となった。
しかし、両者の間には明らかにハンドスピードに差があった。序盤、ショーグンはインローで相手の出方をうかがい、スミスは下がりながら打撃を出す展開だが、スミスがコンビネーション中に交えて出した前蹴りが顎にヒットする。それに反撃するためショーグンは前に出るがパンチは当たらず、ケージ際に下がったスミスにゆるいスピードの右ボディを出した所、頭がガラ空きとなりスミスのワンツーを食らう。
そのダメージが効いてしまい、パンチ連打でショーグンは反対側のケージまで下がらされ、最後は右フックに交えた右肘、そしてストレートをもろに食らって崩れ落ち、試合は終わった。
今回、ショーグンがまだ36歳ということに驚いてしまったが、プライドに出始めたのが15年前ということで、21で出ていても現在それくらいの年齢となり、選手として不可能な年齢ではない。おそらく5R用の戦い方をショーグンは用意してきたのではないかとは思うが、序盤の段階で効かされてそのまま仕留められてしまった。
しかしまあスミスのフィニッシュへの繋ぎからして、どう見てもやはり一発の攻撃力に絶対的な差が出ていたことは明らかだ。ショーグンはかつてのダン・ヘンダーソン戦のような倒し倒されという粘りも当然できず、完敗的なダウンだった。今後の進退をどうするのかも気になるところだ。
溜まってしまっている大会レポートは、後日また書く予定。