ジュニオール・ドス・サントスvs.ブラゴイ・イワノフ(UFCファイトナイト133)
アンソニー・スミスvs.マウリシオ・「ショーグン」・ルア(UFCファイトナイト134)
今回も二大会まとめて(
UFCファイトナイト135については日を改めてまた掲載したい)。
前者はアイダホ州ボワシーで開催されたファイトナイトシリーズ。
カビブ・ヌルマゴメドフの親類の
サイード・ヌルマゴメドフの出場、
ダレン・エルキンスや
エディ・ワインランドというベテラン勢の敗北と、ドーピングの制裁期間が明けた
チャド・メンデスの復帰が話題になっていたが、
セージ・ノースカットが
ザック・オットーに1Rは押さえ込まれるも2Rにケージ際の打撃で勝利し、大会後に話題となって株を上げていた。
最近のダナ・ホワイト・チューズデー・ナイト・ファイト・コンテンダー・シリーズでもそうだが、契約選手を見つけること自体をショー化するのはTUFシリーズからのお家芸だ。日本の格闘代理戦争シーズン2もそうだが、リアリティショー的あるいはかつての「ガチンコ!」的な番組は、試合だけでは伝わってこない舞台裏もショーとして示すことで面白いし、感情移入もしやすくなる。
しかし難点もある。アメリカでも日本でも、そこで取り立てられた選手達がその後活躍している確率はそれほどには高くないのではないか(もちろん
ディエゴ・サンチェスのような選手もいるが)。TUFは比較的歴史があり今やある程度戦績がある人しか出てこないし、昔の「ボクシング予備校」の飯田覚士のような存在もいるが、入り口のところで使い潰してしまう性質がある気がしてならない。
そういう意味で、言うまでもないが「育てる」のはあくまで所属ジムであり、真の意味での新人育成はショーの主催団体にはやれない、ということだろう(
UFCファイトインスティテュートのような設備は凄いと思うが、強い選手をそこで練習させても今のところ結果が出ていない)。
長い目で見ると、格闘代理戦争2では負けてしまった葛西和希やスソンのように、負けても所属しているチームの環境次第で、当然ながら後々戦績が逆転する可能性は十二分にあることは間違いない。
この点、
セージ・ノースカットはまさにダナ・ホワイトのフェイバリットとして一本釣りされた第一号だったが、
ブライアン・バルバリーナや
ミッキー・ガルに敗北した時点で、ちょっと光が消えかけていた。ジムもトライスターなどを渡り歩いていたが、チーム・アルファメールに腰を落ち着けてから三連勝と結果が出てきたようである。相性というのは難しいが、この意味で個人の勝負である格闘技と言えども、チーム戦でもあると思う。
ちなみにノースカットは
ヨエル・ロメロと並んでUFC選手の中では最もバキバキの見栄えがする体で、
ボディビル界でも人気の様子である。
ジュニオール・ドス・サントス対
ブラゴイ・イワノフについては、5R終始ドス・サントスの距離で試合が進み、イワノフは実質上何もできなかったと言ってよい。ドス・サントスの判定勝ち。
正直ちょっと語りにくい試合で(更新が遅くなったのはそのせい…という言い訳だが)、ドス・サントスは蹴りも交えるが、リーチの差を活かして終始ボクシングに徹する。イワノフはそこに打撃で応戦しようとするのだが、まず距離が完全にドス・サントスに支配されているので有効打はほとんどなかった。
かといってドス・サントスが相手を倒すまでも行かず、いわば立ちの猪木アリ状態とでもいったところか。戦績を見ると、相手が打撃型の選手だと勝っても負けてもKOなのだが、グラップリング系から来た選手に対してはフルラウンドで判定勝利が多くなっている(イワノフはコンバット・サンボ出身、
エミリヤーネンコ・ヒョードルを下したことで有名だが)。
確かにドス・サントスのパンチはスピードもパワーも図抜けたものがあるのだが、今ひとつ「総合」の面白味に欠ける試合になってしまう点が物足りないところだ。とはいってもこれからドス・サントスがスタイルを変えるとは考えにくいが。
ファイトナイト134の方はドイツ・ハンブルグで開催されたが、メイン以外では
ナズラ・ハクパラスト対
マーク・ディケイシーのファイトが個人的に良かった。ハクパラストはアフガニスタン出身でドイツで学んでいる(いた?)選手だが、現在はトライスタージムとキングスジムを掛け持ちしているようだ。スピーディーに繰り出されるコンビネーションと全体のプレッシャの強さにより、ディケイシーを判定で下した。
肥満児だったことからMMAをはじめた選手らしいが、がっしりした体格でどことなく
ケルヴィン・ガステラムを彷彿とさせる動きも面白い。当然だが、MMAに有利な体型は決まっておらず(リーチの長さは大きいと思うが)、体型・体質に合った戦い方の習得が重要なのだと思わされる。
メインの
アンソニー・スミス対
マウリシオ・「ショーグン」・ルアは1Rで終わってしまった。
スミスは
チアゴ・サントスに敗れているものの、爆発力のあるスタイルと威圧感のあるルックスで、おそらくUFCのフェイバリットな選手である。
ヴォルカン・オズデミアの欠場に代わり、ショート・ノーティスでの出場となった。
しかし、両者の間には明らかにハンドスピードに差があった。序盤、ショーグンはインローで相手の出方をうかがい、スミスは下がりながら打撃を出す展開だが、スミスがコンビネーション中に交えて出した前蹴りが顎にヒットする。それに反撃するためショーグンは前に出るがパンチは当たらず、ケージ際に下がったスミスにゆるいスピードの右ボディを出した所、頭がガラ空きとなりスミスのワンツーを食らう。
そのダメージが効いてしまい、パンチ連打でショーグンは反対側のケージまで下がらされ、最後は右フックに交えた右肘、そしてストレートをもろに食らって崩れ落ち、試合は終わった。
今回、ショーグンがまだ36歳ということに驚いてしまったが、プライドに出始めたのが15年前ということで、21で出ていても現在それくらいの年齢となり、選手として不可能な年齢ではない。おそらく5R用の戦い方をショーグンは用意してきたのではないかとは思うが、序盤の段階で効かされてそのまま仕留められてしまった。
しかしまあスミスのフィニッシュへの繋ぎからして、どう見てもやはり一発の攻撃力に絶対的な差が出ていたことは明らかだ。ショーグンはかつてのダン・ヘンダーソン戦のような倒し倒されという粘りも当然できず、完敗的なダウンだった。今後の進退をどうするのかも気になるところだ。
溜まってしまっている大会レポートは、後日また書く予定。