2018年8月7日火曜日

UFC227:ディラショーvs.ガーブランド2

ヘンリー・セフードvs.デメトリアス・ジョンソンUFC227
TJ・ディラショーvs.コーディ・ガーブランド(同上)
ロサンゼルスのステープルセンターで開催されたナンバーシリーズ。
やはりヘンリー・セフードデミトリアス・ジョンソンのリマッチに触れない訳にはいかない。初戦はDJの膝がセフードのみぞおちを直撃して、DJの文句なしの勝利だった。今回はMMAの経験を積んだセフードがどれほどDJ相手に自力を発揮できるのかが焦点だったと言える。
全部書いていると長くなるので、ラウンド毎のざっくりとした印象のみ。
1RはDJが蹴り主体で攻め、2Rはセフードの足を取るも、やはり金メダリストは倒せない。セフードは時折、足を取ることをフェイクで入れたりするが、中盤まで打撃勝負。終盤に内掛けからテイクダウンをして上を取るが、そのまま終わり。
3Rも組むとさすがにセフード強く、崩しかけるが四つでしばらく膝の打ち合いのシーンが続く。終盤ではスクランブルもあり、レスリングではDJも負けてない。このラウンド終わりにDJは出した膝蹴りをつかまれたのを切るが、この動きでおそらく膝を痛めたように見える(試合後、前十字靭帯を痛めたと言っていた)。
4R、積極的にDJは打撃を出すがやはり運足に乱れが見られる。DJは基本回っては打撃だが、やはり中盤でテイクダウンされる。
5R、DJは積極的に前に出るが、やはりセフードを打ち崩せない。残り2分でセフードがタックルに行き、ケージ際でバックを取る。DJ差し返すもセフードテイクダウン、DJ離れて立ち上がり、パンチの応酬。DJはハイなど出すも決定打には欠ける。
再びセフードがテイクダウンを狙ってきたところをDJが切り、互いにもう一度パンチ連打を出し合ったところで試合が終了した。
結果は2-1のスプリットでセフードの勝利。DJの14連勝目の記録達成とはならなかった。打撃の面ではあまり差がないように見えたので、テイクダウンが判定にカウントされたのだろう。
セフードはレスリング+空手という少数派のスタイルだが、遠い間合いで相手の打撃を外し、近づく時は打撃かテイクダウン狙いかがハッキリしている。打撃の決定力については、まだ伸びしろがありそうである。
DJの万能ぶりとこれまでの勝利については改めて語るまでもないのだが(レイ・ボーグ戦のアームバーはマジカルだった)、怪我も含め、ここで一マス休みという所だろうか。ジョセフ・ベナビデスジョン・ドッドソンといった選手たちも全て退けてきたDJだが、これで軽量級のランキングは今後一気に流動化してくるかもしれない(ドッドソンは階級を上げているが)。
しかし、セフード対堀口恭司が見てみたかった所だな…と一瞬考えてしまったのは、私だけではないだろう。
TJ・ディラショーコーディ・ガーブランドの再戦は、第一戦が倒し倒されながらの現代MMA最前線という感じの試合だったので、今回も超期待大であった。TJのアルファメール脱退関連の煽りも再度ないではなかったが、それよりもむしろ年齢・勢い的に「乗っている」両者同士の高度な戦いを、観客も望んでいたのではないだろうか。
試合前にTJが差し出したグラブをガーブランドが無視して、1R開始。TJは両手を下げて左右に動きながら上体を傾け、相手の隙をうかがうのに対して、ガーブランドはじりじり前に出て追ってゆく展開。序盤は蹴りの探り合いからはじまる。
TJの構えは非常に低い。頻繁にスタンスの左右を変えながら、左ジャブ・右ハイを出し、ローを打ってゆく。するとガーブランドは3連打からの右ハイを返すが、互いにかわす。
ガーブランドのローの後、互いにジャブを打ち合い、TJは左右フックの連打で入ってゆくがガーブランドは体を入れ替え、オクタゴン中央に戻る。
TJは出入りしつつ右フック。ガーブランドが一度離れ再び近づいた所でTJは右を見せ、ダッキングから左ミドルを出すとヒットする。これにガーブランドは右パンチで返す。
TJ左ミドル、左ロー。右手を額に当てて低い姿勢を保つ独特の構え。ガーブランドの右ミドルを右手で捌くと、右を出すが、ガーブランドそれをかわして左右連打。TJ離れる。ガーブランド近づいて右ストレートを出すとヒットし、TJ少し下がる。しかしTJも右を返している。
TJ、スタンスをサウスポーにセット、ガーブランドの右ミドルを抱えようとする姿勢から右ローを出す。タックルフェイントを見せ、離れた所にバックブローを出すが空振り。ガーブランドは「それがどうした」とばかりに直立ポーズを示す。
ガーブランド、右ミドル。TJは再びタックルフェイントからの左インロー。TJが構えをオーソに戻して右ローを出した際、ガーブランドがその足を取りつつ右ストレートを出すと、TJが前にバランスを崩す。抑えにいったガーブランド、バックに回りTJの側頭部にパンチを当てながら立つ。右左のパンチを連打するが、TJはガードしている。
ここからが第一のクライマックスであった。
追ってゆくガーブランド、やはり左右のフック連打を見せるが、TJが左に体を傾けながら右フックを思い切り振ると命中。ガーブランド、応戦してやはり右フックを出すが、TJは同じ右をさらに二連続で強く出し、全てガーブランドに命中させるとガーブランドは尻餅をついた。
下がるガーブランドの首を抑え、TJはバックに回る。ガーブランドが中腰で立つと、そこにパウンドの雨を降らせる。ガーブランド離れ、TJは左右に動いてジャブから右ミドル、ガーブランドはやはり右左のフックを出すも、両者離れる。
TJ、右ハイから左ロー、ジャブに繋げる。再びオーソの構えに戻し、右を出すとガーブランドも左で応戦し、さらに右フックを出す。ガーブランドはケージ際に詰められてゆき、TJがタックルフェイントを見せるとガーブランドはタックル姿勢から右を出すが、そこにTJは右フックを合わせる。ガーブランドふらつきながらケージまで下がり、跳ね返ってきたところにTJが右フックを合わせるとガーブランドダウン! TJはバックを取り、再びパウンドの嵐を注ぐ。
ガーブランドはケージ際まで逃れようとするも、立ち上がったところで膝蹴り、そして左右の連打をTJが叩き込んだ所でレフェリーのハーブ・ディーンが試合を止め、TKOとなった。
1Rでどれだけ多くの攻防があることか! 細かく書いてゆくときりがない。
だが、試合後にTJが語ったところによると、ガーブランドの弱点として「右を出す際には左のガードが下がっていること」が指摘されていた。ラウンド中盤で出した相手の右に合わせての右三連打は、彼が確実に戦略を実行したことをうかがわせていた。
TJ、ガーブランドともに野性味と倒し切る強さを持っている選手だが、やはりTJの強みの一つにドゥエイン・ラドウィッグの指導があることは確かだろう。試合は個人の能力だけではなく、コーチやチームと作り上げるものであることを実感させられた結果である。
「知能は本能化されてはじめて知能になる」(大意)という言葉もあるが、単なる知識ではなく、自分のものとして動きの中に練り込まれてこそ「知能」が発揮されるのであるとすれば、そのハイレベルなあり方の一つが見られたと言ってよいのかもしれない。