2018年6月15日金曜日

UFC225:ウィテカーvs.ロメロ2

ロバート・ウィテカーvs.ヨエル・ロメロ(UFC225
シカゴで開催されたナンバーシリーズ。色々とお騒がせのコルビー・コーヴィントンハファエル・ドスアンジョス戦ほか、豪華カードが目白押しの大会だったが、CMパンクマイク・ジャクソンを本戦に入れた結果、ファイトナイトシリーズならメインを張れそうなアリスター・オーフリームカーティス・ブレイデス戦がプレリムに回されるという事態に。
これには最初疑問も出ていたが、デイナ・ホワイトは「オーフリームがCMパンクよりペイパービュー数が取れるのか?」との理由でその声を拒絶。しかし試合はジャクソンも極めきれず、パンクもKOされなかったことだけが褒められる内容に。デイナは後からジャクソンを貶して「プレリムにしておくべきだった」とか言っているが、やる前からそれ想像できただろ。
そのオーフリーム対ブレイデスはパウンド肘の連打で、ブレイデスがオーフリームをKO葬した。オーフリームはスティペ・ミオチッチ戦でもパウンドで敗北を喫したので、寝かされると弱いのかもしれないが、フランシス・ガヌー戦に続いての新興勢力に対する連敗は痛手である。引退はまだと思うが、負け方のインパクトが強く、次はかなり今後が試される感じになるだろう。
試合として凄かったのはタイ・ツイバサアンドレイ・アルロフスキーの一戦である。オーストラリア勢であるツイバサの、マーク・ハントを思わせるゆったりした構えからの打撃力と、ATT移籍後、ジュニオール・アルビニシュテファン・シュトルーヴ戦に勝利しまだ勝負への執念を燃やし続けているアルロフスキーが激突。
期待通りの打撃戦となったが、またフラッシュダウンを交えつつも、まだ切れも威力もある的確な打撃に交えてクリンチワーク等でも妙を見せるアルロフスキーに対し、顔面をズタズタに切られつつもツイバサが強力な突進とパンチ・肘でぶつかってゆく、見応えのある試合だった。
さてロバート・ウィテカーヨエル・ロメロの再戦だが、周知の通りロメロが0.2ポンド体重超過して、タイトルマッチではなくなった。
ロメロはオーバーウェイトの常習犯だが、今回は1回目の計量でわざとオーバーし、その後の再計量までの2時間をかけて規定体重に落とす計画だったと語っている。だが、イリノイ州のコミッションがなぜか1時間で計量を強いてきたため落とせなかった…という言い分を主張している。
ロメロ陣営はコミッションを訴えるつもりのようだが、まあこうなってくると陣営の判断が悪いということも考えられる。いずれにせよ、また残念な結果だ
しかし、試合は白熱したものだった。
1R、ロメロはガードをしっかり固めてアップライト気味の構え、対してウィテカーは手を下げ気味で出入りの激しいスタイル。第一戦でロメロが放ってきたオブリーク・キックを、今回はウィテカーが時折交えてゆく。
時間の多くはウィテカーが打撃を打ち込んでいるが、ロメロはガードのままほとんど動かず、時折爆発したようにパンチか蹴りを出してゆく形。だがこのラウンドは、概ねウィテカーが距離も打撃のやりとりも支配していた。
おそらくロメロはスタミナに注意して、初回は目慣らしを兼ね、完全に様子見に徹したものと思われる。
2Rはロメロが構えを変え、左手を横に倒すガードでウィテカーを牽制する。フロイド・メイウェザーの構えを彷彿とさせる、デトロイトスタイル的な感じだ。ロメロは非常に策士というか、野生派のようでいて相手を撹乱する心理戦にも長けているし、そういう思いつきがパッと出てくる勘があるのだろう。
しかしあまりこの構えは長続きせず、ウィテカーの打撃を受けて変えてゆく。このラウンド、ロメロは攻撃に転じて蹴りもパンチも出すが、中盤、ロメロの右目が腫れてきていた。ウィティカーも応戦するが、低い構えから伸びるパンチと蹴りを連打できる点が強みである。速くて強く、かつ腰が強くてテイクダウンディフェンスに隙がない。
ラウンド終盤にロメロはタックルに行くが、ウィティカーは第一戦でも見せたテイクダウンディフェンスの強力さで、倒させない。このラウンドはロメロも積極的に出ていた。
3R、互いに攻撃がスウィングし出す。
フック系と回し蹴りを出し合ってラウンドがはじまったが、ウィティカーが前蹴りを出した所にロメロがワンツーを入れ、ウィテカーがダウンを喫する。ウィテカーはすぐに立ったが、ロメロはがぶりの体勢に持ち込み肘を叩き込む。ウィテカー立ち上がり、ケージ際でクリンチ状態となるが、ロメロ打撃を止めず、フックを連打し肘を降り注ぐ。
クリンチ状態のままの差し合いからロメロがタックルに行くも、離れた後、ロメロ再び打撃で優勢に。ロメロは相手を追いかける際にほとんど走りながらフックの連打を放つが、合間にはウィティカーも蹴りを返している。
ロメロ、再びケージ際にウィテカーを詰め、バックを奪いそうになるが、ウィテカーが差し返して体を返し、ケージにロメロを釘付けにしたところでラウンド終了。
4R。先ほどの猛攻でロメロのスタミナが危ぶまれるところだが、このラウンド出だしは非常に静かな動きで、スタミナ温存を図ってゆく。短いローブロー休憩を挟み、再びロメロはデトロイトスタイル的な構えをとるが、今度はウィテカーが細かいジャブを4連打で突き、動きを制する。ロメロはゆっくりと前進しながらプレッシャーをかけ、一方、ウィテカーは下がりながら多彩な打撃を出してゆく。中盤からはウィテカーは肘を何発も放っていた。
ウィテカーの打撃は剛柔流空手とハプキドーがバックグラウンドとのことだが、ジャブは鋭くて速く、フックは体幹から動かすパンチでないのに威力がありそうだ。またダン・ハーディが解説していたが、ウィテカーの蹴りはムエタイやキックボクシングのように腰を入れる動きではなく、膝を突き出したあとヌンチャクのように脛の部分を伸ばしてゆくタイプのものである。これに出入りの突進力と体の強さが加わって威力を増している印象だ。
終盤になるとロメロが出てきてパンチを当てたが、ウィテカーが優勢のラウンド。
最終ラウンド、ロメロ最初から打撃を仕掛けてゆく。後ろ回し蹴りも交えつつ、前へ前へ出ながらパンチを放ってゆく。ウィテカー、下がりながら打撃で応戦してゆくが、ロメロのフックをダッキングした際に背中を見せる格好となり、そこにロメロが飛び込み気味のフックを叩き込むとダウン! ロメロ、うつ伏せのウィテカーを上から押さえながらパウンドを入れようと試みるが、そのままウィテカーはダメージを抑え、ケージ際で立つと、ロメロがバックを取った。
だがそのまま膠着状態となり、レフェリーに分けられ再開。ウィテカーは前蹴りでロメロを抑える攻撃から、回し蹴りの打ち合い、そして最後にロメロが突進したところでホーンが鳴り、激闘は終了した。
結果は2-1のスプリットディシジョンで、ウィテカーの勝利となった。私は裁定に不服はない。ダウンはあったが、全体としてはウィテカーの攻めが支配していたと思う。
1Rでウィテカーの拳が折れていたとのことだが、ウィテカーは打撃の回転力+パワー、フットワークの巧みさ、ロメロにもテイクダウンされないディフェンス力と体幹の強さが抜きん出ていた。かつては優れているにせよそこまで目立つ印象がなかったが、ブラッド・タヴァレス戦に勝利した後、階級をミドル級に上げてから格段に強くなった感がある(タヴァレスも今はミドル級)。適正階級が強さを呼び込んだとも言えるだろう。
だがロメロの方も仮にライトヘビーに上げたとしたら、どれくらい通用するだろうかというの期待が生まれるのが間違いない選手ではある。良くも悪くも、話題の尽きない存在だ。

2018年6月4日月曜日

UFCファイトナイト131:リベラvs.モラエス

グレゴール・ギレスピーvs.ヴィンス・ピシェル(UFCファイトナイト131
マルロン・モラエスvs.ジミー・リベラ(同上)
ニューヨーク州ユーティカで開催されたファイトナイトシリーズ。
コ・メインでは以前ちょっと触れたグレゴール・ギレスピーヴィンス・ピシェル相手の試合をつとめたが、レスラーによるコントロール&グラップリングのまさに手本のような試合だった。
1R冒頭から打撃を出した直後にシングルレッグのタックル、倒してケージ際でサイドを取りコントロール。細かな打撃を入れつつ、相手が動いたところでギロチンに移行しようとするが、相手が立つとまたシングルレッグで倒す。
さらにピシェルが立ってくると膝蹴りを入れてからまた倒し、ガードポジションからハーフへ移行、そしてマウントを奪う。さらに相手が立つと再びパンチ→膝蹴りと、とにかく動き続ける。ラウンド最後はタックルを切られるもそこから相手の上を取り、アナコンダチョークをトライするも時間切れ。
2Rは再びギレスピーがシングルレッグからケージ中央でテイクダウン。相手が立ち上がろうとするところをがぶりの姿勢で抑え続け、ケージ際でバックを取る。
後ろからのパウンドや尻への膝蹴りを入れつつ背中に乗っかると、ピシェルが立ち上がりかけるも、局面の打開を求めて前転したところでギレスピーがサイドを取り、ハーフへ移行。ピシェルが腕をとられるのを嫌がり後ろを見せかけたところを捉え、がっちりと肩固めで極めた。
ギレスピーはグレイシー・バッハでもトレーニングをしているようだが、とにかく休みなしに動き続け、打撃からタックル、そしてグラウンドになっても膠着せずに相手を常にコントロールしながらひたすら攻め続けている。いっときも休まず、打撃・テイクダウン・グラウンドが一体化して先手を打ち続けている点、非常に高度で強力なスタイルだ。
カジュアルファンにも分かりやすい形で、打撃のKOばかりが攻めであるわけではないことを感じさせてくれる選手である。次こそは有名選手と当たるだろうか。
マルロン・モラエスジミー・リベラは試合前にはかなり舌戦を繰り広げ、期待を盛り上げていた。両者とも有力選手として、今後を占う試合だ。
リベラは2009年以降負けなしで、最近ではユーリ・アルカンタラユライア・フェイバー、そしてトーマス・アルメイダと、相手がベテランであろうが若手有力選手であろうが、勝利を収め続けてきた。一方のモラエスはWSOFからの移籍後、UFC初戦ではハファエル・アスンサオに負けたものの、その後ジョン・ドッドソンに勝ち、アルジャメイン・スターリング戦の緊急出場でも派手なKO葬を見せつけたことで、今回はメインへ抜擢されたのだろう。
しかし試合は1R、33秒で決着がついた。冒頭の探り合いでモラエスがローを入れた後、両者ともにパンチの間合いを測っていたが、そこでモラエスの巻き込むようなハイが命中! リベラはうつぶせ気味に倒れ、かがみこんでいるところに後ろからモラエスがパウンド、レフェリーが試合を止めた。
リベラのガードが低かったようには見えなかったが、見直してみると、モラエスは互いにパンチを出していたその間合いから、そのままスッと後ろ足を寄せてハイを放っていた。リベラは手の間合いに気を取られて、虚を突かれた形になったのだろう。また、リベラの構えがそもそも低めであることもモラエスの計算にあったかもしれない。
いずれにせよ、一瞬間を逃さず的確に蹴りを叩き込んだ、モラエスの見事な勝利であった。

メインが短かったので別の話題にも触れるが、ONE Championshipがアベマと組んで日本選手を数多くスカウトしはじめている。日本国内でUFCを目指していた次世代選手も含め、有力選手が多く契約した模様だ。アジア圏のMMA普及に力を入れるONEだが、地殻変動が起こるのか。こちらの動向にも注目だろう。

2018年6月1日金曜日

UFCファイトナイト130:トンプソンvs.ティル

ダレン・ティルvs.スティーブン・トンプソン(UFCファイトナイト130
イギリス・リバプールで開催されたファイトナイト。周知の通り、ダレン・ティルスティーブン・「ワンダーボーイ」・トンプソン戦の計量で3.5ポンドのオーバー。出場給を30%トンプソンに譲渡することと、当日の1時まで188ポンド以上に戻してはいけないという条件をクリアした上で対戦ということになった。
ティルのミスウェイトは今回が初めてではない。2017年のジェシン・アヤリ戦でも5ポンドオーバーをし、20%の出場給譲渡で出場して勝利している。今回はティルの地元イギリスであり、かつメイン試合ということでオーバーウェイトしてはいけなかった訳だが、やってしまった。かなり無理に階級を落としている感じだ。
先日、ウェイトは名誉の問題でもあると書いたが、結局は、フェアな勝利が最も名誉なことは間違いない。そう考えるとウェイトオーバーに関する罰則は、もっと勝敗に直接結びついたものを加えた方がいい。ポイントを1ポンドにつき1点づつ予め対戦相手に与えるとか、そういうものだろう。ファイトマネーの30%というのも我慢可能な範囲に思える。サンクションを付けるのであれば、50%以上であっても構わないだろう。
本来的には試合自体が取りやめになる可能性もありえたはずで、実際には、これを受けたトンプソンが褒められて然るべきであろう。ティルはガールフレンドの容体が急変して病院に行かなければならなかった云々という話もあるようだが、それは正しくとも正しくなくともどちらでもいい。トンプソンには試合ルール上でのボーナスがあるべきだ。
ティルは刃傷沙汰に巻き込まれ、そこから逃れるために行ったブラジルで格闘家としてのキャリアを本格的にはじめたという物語もあって、地元リバプールのものすごい声援を受けながら入場。
1Rは互いの打撃を警戒しながら、一撃必殺を狙う展開で緊張感が張り詰めたラウンド。ティルはオクタゴン中央を取り、「ワンダーボーイ」はスタンス広く相手のサイドに回る動き。トンプソンは両手を下げているので、タックルもあまり有効ではない。それに彼の兄弟はクリス・ワイドマンの姉妹と結婚している関係もあり、レスリングの防御力はかなり高いはずである。
序盤からローを打ちながら、互いに距離と手の位置を探り合う、打撃のチェスマッチが繰り広げられる。2回ほどトンプソンは飛び込み、正拳突きを当てる。ティルは両手を広めに開き、トンプソンの横への動きを警戒。途中でスピニングバックフィストも見せるが、ティルの有効打はこのラウンドは見られなかった。
2Rは最初ティルが圧力を強めて出てくる。ケージ際でのプレッシャーは強く、これだけでトンプソンはかなり疲労するはずだ。しかしこのラウンドはその後、比較的ケージの中央で展開された。ティルは首相撲からの膝を出すも不発。その後、オブリーク・キックをトンプソンの膝に何度か当てる。集中力を少しでも切らした方が負ける感じだが、やはり体は明らかにティルの方が大きな感じだ。トンプソンはサイドキックや回し蹴りをラウンド最後に見せるも、大きなダメージは与えられず終了。
3Rは少々トンプソンも出、ティルもトンプソンの攻撃が終わると攻めるという、波が交互に来る感じの攻防。
しかしこういう試合だと、特にトンプソンの防御技術、特にパンチを避けるパリーや頭の振り方に目が行く。防御に関しては攻防一体というか、相手の攻めを利用してこちらの打撃を当て、かつ動きの脱出口へと移動する感じである。MMAでの防御技術の高さというのはもっと注目されてもいいだろう。
残り30秒頃にアイポークでティルが少し休み、再開後にトンプソンに詰めて左を一発当てた。このラウンドが印象点としてティルに行ったとすれば、この一撃だろう。
4R。ティルのスタイルはムエタイなのだが、相手にプレッシャーをかけて、出て来る所を仕留める感じである。その意味でパワーはスタイルの一部だが、今回はトンプソンが絶妙なところで勢いや距離を外すので、ティルもかなり消耗していることが見て取れる。
残り2分弱で、ティルがトンプソンを捕まえ、この試合初のクリンチ。しかしすぐに離れて再び間合いの取り合いへ。ティルの顔がだんだん引きつってきているが、動き自体はまだ力がこもっている。
ラストラウンド。再びティルがパンチで迫るがトンプソン避ける。ティルはしばしば両足を止めて両手を広げ、相手が攻めるのを待つもトンプソンはそこには乗らない。途中、トンプソンが後ろ回し蹴りを出して外した後に、ティルがやはり後ろ回し蹴りの動作で体だけ回るシーンがあり、なんだかカポエィラを見ている雰囲気に。両者笑って拳を合わせた。
残り2分強で、ケージ際に詰めたティルの左がトンプソンの耳の後ろにヒット、「ワンダーボーイ」がこの試合初めてのダウン。ティルはすぐに覆い被さろうとするが、トンプソンすぐに立ち上がり、両者離れた。トンプソンの打撃が当たるも、ティル首を振り効いていないとアピール。
残り1分で再びティルがトンプソンをケージに詰めるが、トンプソンはタックルに入り打開。その後は両者やはりこれまでのように攻め合うも、そのまま終了。
結果はユナニマスディシジョン(48-47、49-46、49-46)でティルが勝利であった。この勝敗のスコアにはかなり批判も出ているが、ティルが明確にラウンドを取ったのは5Rのみで、後はどちらに傾いていてもおかしくない試合である。
スコアほどにティルが優勢であったとは言いにくい試合なので、もしも体重差を加味したポイント採点であれば、トンプソンが勝っていただろう。あるいはカポエィラ的に、拳を合わせて終了というのでもよかっただろう…とは言えないか。実際には勝敗のない試合に勝敗をつければ、不満が出るのは当然である。
トンプソンのスタイルは、時折連打で直進するものの、基本的にはカウンターパンチャーである。筋力や固さに物を言わせる打撃ではなく、相手の突進力を利用し、また回転系の技術で手足の遠心力を衝撃力に変えるタイプのものだ。これはどっしり構える町田空手とはまた異なるスタイルだ。しかし、実生活上の護身術という観点で言えば、ステップを重視しつつも攻め込みすぎないこのスタイルは、実用的だと言える。
ティルはまだ25歳ということもあり、これからの伸びしろはまだまだある。実際、先のドナルド・セローニ戦の勝利といい、5Rに渡ってトンプソンとしのぎ合ったことといい、強さは本物だと思う。しかしやはり、体重オーバーでの勝利は疑念しか呼ばない。曇りなき勝敗を見せて欲しい。