ティルのミスウェイトは今回が初めてではない。2017年のジェシン・アヤリ戦でも5ポンドオーバーをし、20%の出場給譲渡で出場して勝利している。今回はティルの地元イギリスであり、かつメイン試合ということでオーバーウェイトしてはいけなかった訳だが、やってしまった。かなり無理に階級を落としている感じだ。
本来的には試合自体が取りやめになる可能性もありえたはずで、実際には、これを受けたトンプソンが褒められて然るべきであろう。ティルはガールフレンドの容体が急変して病院に行かなければならなかった云々という話もあるようだが、それは正しくとも正しくなくともどちらでもいい。トンプソンには試合ルール上でのボーナスがあるべきだ。
1Rは互いの打撃を警戒しながら、一撃必殺を狙う展開で緊張感が張り詰めたラウンド。ティルはオクタゴン中央を取り、「ワンダーボーイ」はスタンス広く相手のサイドに回る動き。トンプソンは両手を下げているので、タックルもあまり有効ではない。それに彼の兄弟はクリス・ワイドマンの姉妹と結婚している関係もあり、レスリングの防御力はかなり高いはずである。
2Rは最初ティルが圧力を強めて出てくる。ケージ際でのプレッシャーは強く、これだけでトンプソンはかなり疲労するはずだ。しかしこのラウンドはその後、比較的ケージの中央で展開された。ティルは首相撲からの膝を出すも不発。その後、オブリーク・キックをトンプソンの膝に何度か当てる。集中力を少しでも切らした方が負ける感じだが、やはり体は明らかにティルの方が大きな感じだ。トンプソンはサイドキックや回し蹴りをラウンド最後に見せるも、大きなダメージは与えられず終了。
しかしこういう試合だと、特にトンプソンの防御技術、特にパンチを避けるパリーや頭の振り方に目が行く。防御に関しては攻防一体というか、相手の攻めを利用してこちらの打撃を当て、かつ動きの脱出口へと移動する感じである。MMAでの防御技術の高さというのはもっと注目されてもいいだろう。
残り30秒頃にアイポークでティルが少し休み、再開後にトンプソンに詰めて左を一発当てた。このラウンドが印象点としてティルに行ったとすれば、この一撃だろう。
残り2分弱で、ティルがトンプソンを捕まえ、この試合初のクリンチ。しかしすぐに離れて再び間合いの取り合いへ。ティルの顔がだんだん引きつってきているが、動き自体はまだ力がこもっている。
残り2分強で、ケージ際に詰めたティルの左がトンプソンの耳の後ろにヒット、「ワンダーボーイ」がこの試合初めてのダウン。ティルはすぐに覆い被さろうとするが、トンプソンすぐに立ち上がり、両者離れた。トンプソンの打撃が当たるも、ティル首を振り効いていないとアピール。
残り1分で再びティルがトンプソンをケージに詰めるが、トンプソンはタックルに入り打開。その後は両者やはりこれまでのように攻め合うも、そのまま終了。
スコアほどにティルが優勢であったとは言いにくい試合なので、もしも体重差を加味したポイント採点であれば、トンプソンが勝っていただろう。あるいはカポエィラ的に、拳を合わせて終了というのでもよかっただろう…とは言えないか。実際には勝敗のない試合に勝敗をつければ、不満が出るのは当然である。
ティルはまだ25歳ということもあり、これからの伸びしろはまだまだある。実際、先のドナルド・セローニ戦の勝利といい、5Rに渡ってトンプソンとしのぎ合ったことといい、強さは本物だと思う。しかしやはり、体重オーバーでの勝利は疑念しか呼ばない。曇りなき勝敗を見せて欲しい。