2018年6月1日金曜日

UFCファイトナイト130:トンプソンvs.ティル

ダレン・ティルvs.スティーブン・トンプソン(UFCファイトナイト130
イギリス・リバプールで開催されたファイトナイト。周知の通り、ダレン・ティルスティーブン・「ワンダーボーイ」・トンプソン戦の計量で3.5ポンドのオーバー。出場給を30%トンプソンに譲渡することと、当日の1時まで188ポンド以上に戻してはいけないという条件をクリアした上で対戦ということになった。
ティルのミスウェイトは今回が初めてではない。2017年のジェシン・アヤリ戦でも5ポンドオーバーをし、20%の出場給譲渡で出場して勝利している。今回はティルの地元イギリスであり、かつメイン試合ということでオーバーウェイトしてはいけなかった訳だが、やってしまった。かなり無理に階級を落としている感じだ。
先日、ウェイトは名誉の問題でもあると書いたが、結局は、フェアな勝利が最も名誉なことは間違いない。そう考えるとウェイトオーバーに関する罰則は、もっと勝敗に直接結びついたものを加えた方がいい。ポイントを1ポンドにつき1点づつ予め対戦相手に与えるとか、そういうものだろう。ファイトマネーの30%というのも我慢可能な範囲に思える。サンクションを付けるのであれば、50%以上であっても構わないだろう。
本来的には試合自体が取りやめになる可能性もありえたはずで、実際には、これを受けたトンプソンが褒められて然るべきであろう。ティルはガールフレンドの容体が急変して病院に行かなければならなかった云々という話もあるようだが、それは正しくとも正しくなくともどちらでもいい。トンプソンには試合ルール上でのボーナスがあるべきだ。
ティルは刃傷沙汰に巻き込まれ、そこから逃れるために行ったブラジルで格闘家としてのキャリアを本格的にはじめたという物語もあって、地元リバプールのものすごい声援を受けながら入場。
1Rは互いの打撃を警戒しながら、一撃必殺を狙う展開で緊張感が張り詰めたラウンド。ティルはオクタゴン中央を取り、「ワンダーボーイ」はスタンス広く相手のサイドに回る動き。トンプソンは両手を下げているので、タックルもあまり有効ではない。それに彼の兄弟はクリス・ワイドマンの姉妹と結婚している関係もあり、レスリングの防御力はかなり高いはずである。
序盤からローを打ちながら、互いに距離と手の位置を探り合う、打撃のチェスマッチが繰り広げられる。2回ほどトンプソンは飛び込み、正拳突きを当てる。ティルは両手を広めに開き、トンプソンの横への動きを警戒。途中でスピニングバックフィストも見せるが、ティルの有効打はこのラウンドは見られなかった。
2Rは最初ティルが圧力を強めて出てくる。ケージ際でのプレッシャーは強く、これだけでトンプソンはかなり疲労するはずだ。しかしこのラウンドはその後、比較的ケージの中央で展開された。ティルは首相撲からの膝を出すも不発。その後、オブリーク・キックをトンプソンの膝に何度か当てる。集中力を少しでも切らした方が負ける感じだが、やはり体は明らかにティルの方が大きな感じだ。トンプソンはサイドキックや回し蹴りをラウンド最後に見せるも、大きなダメージは与えられず終了。
3Rは少々トンプソンも出、ティルもトンプソンの攻撃が終わると攻めるという、波が交互に来る感じの攻防。
しかしこういう試合だと、特にトンプソンの防御技術、特にパンチを避けるパリーや頭の振り方に目が行く。防御に関しては攻防一体というか、相手の攻めを利用してこちらの打撃を当て、かつ動きの脱出口へと移動する感じである。MMAでの防御技術の高さというのはもっと注目されてもいいだろう。
残り30秒頃にアイポークでティルが少し休み、再開後にトンプソンに詰めて左を一発当てた。このラウンドが印象点としてティルに行ったとすれば、この一撃だろう。
4R。ティルのスタイルはムエタイなのだが、相手にプレッシャーをかけて、出て来る所を仕留める感じである。その意味でパワーはスタイルの一部だが、今回はトンプソンが絶妙なところで勢いや距離を外すので、ティルもかなり消耗していることが見て取れる。
残り2分弱で、ティルがトンプソンを捕まえ、この試合初のクリンチ。しかしすぐに離れて再び間合いの取り合いへ。ティルの顔がだんだん引きつってきているが、動き自体はまだ力がこもっている。
ラストラウンド。再びティルがパンチで迫るがトンプソン避ける。ティルはしばしば両足を止めて両手を広げ、相手が攻めるのを待つもトンプソンはそこには乗らない。途中、トンプソンが後ろ回し蹴りを出して外した後に、ティルがやはり後ろ回し蹴りの動作で体だけ回るシーンがあり、なんだかカポエィラを見ている雰囲気に。両者笑って拳を合わせた。
残り2分強で、ケージ際に詰めたティルの左がトンプソンの耳の後ろにヒット、「ワンダーボーイ」がこの試合初めてのダウン。ティルはすぐに覆い被さろうとするが、トンプソンすぐに立ち上がり、両者離れた。トンプソンの打撃が当たるも、ティル首を振り効いていないとアピール。
残り1分で再びティルがトンプソンをケージに詰めるが、トンプソンはタックルに入り打開。その後は両者やはりこれまでのように攻め合うも、そのまま終了。
結果はユナニマスディシジョン(48-47、49-46、49-46)でティルが勝利であった。この勝敗のスコアにはかなり批判も出ているが、ティルが明確にラウンドを取ったのは5Rのみで、後はどちらに傾いていてもおかしくない試合である。
スコアほどにティルが優勢であったとは言いにくい試合なので、もしも体重差を加味したポイント採点であれば、トンプソンが勝っていただろう。あるいはカポエィラ的に、拳を合わせて終了というのでもよかっただろう…とは言えないか。実際には勝敗のない試合に勝敗をつければ、不満が出るのは当然である。
トンプソンのスタイルは、時折連打で直進するものの、基本的にはカウンターパンチャーである。筋力や固さに物を言わせる打撃ではなく、相手の突進力を利用し、また回転系の技術で手足の遠心力を衝撃力に変えるタイプのものだ。これはどっしり構える町田空手とはまた異なるスタイルだ。しかし、実生活上の護身術という観点で言えば、ステップを重視しつつも攻め込みすぎないこのスタイルは、実用的だと言える。
ティルはまだ25歳ということもあり、これからの伸びしろはまだまだある。実際、先のドナルド・セローニ戦の勝利といい、5Rに渡ってトンプソンとしのぎ合ったことといい、強さは本物だと思う。しかしやはり、体重オーバーでの勝利は疑念しか呼ばない。曇りなき勝敗を見せて欲しい。