2018年1月29日月曜日

UFCファイトナイト:ジャカレイvs.ブランソン2

ホナウド・「ジャカレイ」・ソウザvs.デレク・ブランソン(UFC on FOX 27
ノースカロライナ州シャーロットで開催されたUFCファイトナイトシリーズ。メインはホナウド・「ジャカレイ」・ソウザデレク・ブランソンの2戦目ということだが、ジャカレイ以外はこれといったスター選手がおらず、メインもリマッチという点にあまり説得力を感じない。どうも視聴率もこれまでで最低だったようだ。
プレリムでは上の写真のミルサド・ベクティクゴドフレード・ペペイを心臓周辺へのボディパンチでKOした試合や、いい具合にシーソーゲームとなったボビー・グリーンエリック・コクの試合が面白かった。
メイン・カードに並んだ試合はドリュー・ドーバーフランク・カマチョアンドレ・フィリデニス・バミューデスなど、フルラウンドの末に微妙な判定で「?」となる展開か、グレゴール・ギレスピージョーダン・リナルディのように1R決着となるかで分かれた(ギレスピーはここまで全勝なので、次は名のある選手と当たるかもしれない)。
2012年に行われたジャカレイ対デレク・ブランソンの第一戦(@ストライクフォース)は、ブランソンが突っ込んでいった所にジャカレイがカウンターの右を合わせて勝敗が決したが(ブランソンは顎を上げて連打するのが癖のようだ)、今回はそれから5年以上が経ち、ブランソンの成長と、前戦でロバート・ウィテカーに敗北したジャカレイの復活なるかという試合だった。
しかし周知の通り、結果は1戦目と同じとなった。
1R、サウスポーのブランソンに対しオーソのジャカレイは距離とアングルを調整し、前足をアウトサイドに取ることを図りつつ相手が詰めてきたら下がり、蹴りを遠い間合いから入れていく。右手は常に顔の横に上げ、いつでも出せる姿勢を保つ。
一方、ブランソンはジャブや蹴りで探りを入れつつ、コンビネーションもたまに見せるという感じ。だが残り2分を切ったところで連打しながら距離を詰め、ジャカレイをケージ際まで押しやる。そこでジャカレイはタックルの姿勢に入り、ブランソンは逃れようとしてケージ中央まで戻される。
両者離れたところでブランソンが膝蹴りを出し、その後左右のラッシュをするが、決定的ダメージは与えられない。するとジャカレイが、相手のガードの上から後頭部まで足の甲が当たるハイキックを炸裂させる。ブランソンがケージへと倒れ込むと、ジャカレイ右のオーバーハンド、そこから立ったまま連打を決め、レフェリーがストップした。
戦績を見る限りでも、ジャカレイはウィテカーとヨエル・ロメロに敗れているだけで、やはりベルトがかかった試合からおあずけを食っている感はする。
ジャカレイは試合も派手だし怖さもある。にもかかわらず彼が長く挑戦できなかったのは、やはり、英語で流暢に話せる選手が人気を集め優遇されることと関連していたのだろう(今回ジャカレイはインタビューを英語で答えていたが)。
改めて言うまでもないが、世界中のMMA選手が集まると言っても、地の利がない大会などどこにもない。その意味でUFCがどのように「世界最高の団体」を標榜しても(もちろん最大級であることは間違いないし、そのことは否定しないが)、結局は一「文化」の問題であることもまた、否めないだろう。
※追記。上の動画では、メイン試合をコマ送りしながらの分析が見られる。
これを見ると、ブランソンはラッシュで左右交互にしか出さない点をジャカレイが把握しガードしていたことや、 ジャカレイが何度も出していたミドルが最後のハイへの撒き餌になっていたことがよくわかる。
こういう細かい分析がジャーナリストたちにより大量にアップされることは、アメリカのスポーツ界全般の強みだろう。

2018年1月28日日曜日

武尊のラドウィックMMA練習映像

アベマTVの「ONE DAY」シリーズで、武尊がアメリカ・デンバーのラドウィックMMAに武者修行しに行った密着映像がYoutubeで流されているが、非常に良い番組だ。個人的にアベマ全体にそんな好感を持ってるわけではないが、この「ONE DAY」は全部見てしまう。
特に下の#2,#3はドゥエイン・ラドウィックの指導と、T.J.ディラショーとの練習風景も結構長く見られる。これほど長くジム練習でのテクニック指導まで流された映像って、個人的にはあまりお目にかかったことがない。ラドウィックやディラショーのステップを見るときにも非常に参考になる。
しかし武尊側は、対戦前の練習光景をこんなに流してよいのだろうか。大雅が分析しても別に構わないということなのか。
青木真也に「嘘つき」呼ばわりされた武尊だが(映像は消されてた笑)、青木の指摘(「商売としてうまくやっているんだと思う」)はある意味当たっていたのだろう。それは武尊自身がどういう気持ちでいるかとはまた別に、ファイトビジネスやショーの中で、そのスターの座にいる者が真に「爽やか」でいられるはずなどないという、「綺麗事」を排してきた青木ならではの言い方である。
しかし、武尊自身もファイトビジネスや人間関係の圧力から逃れることが必要だと感じて、今回武者修行をしたのかもしれない。「強さ」の探求は同時に、それを存続させる仕組みそのものとの戦いでもある。初心を保つことは難しいが、それがなければそもそもの魅力はないのだから。

2018年1月22日月曜日

UFC220:ミオチッチvs.ガヌー

ダニエル・コーミエvs.ヴォルカン・オズデミア(UFC220
スティペ・ミオチッチvs.フランシス・ガヌー(同上)
「GO BIG」という文句でプロモートされたUFC220。ライトヘビー級のダニエル・コーミエヴォルカン・オズデミア、ヘビー級のスティペ・ミオチッチフランシス・ガヌーという、とにかくデカい連中がメインに揃い踏みした大会である。
ベテランのコーミエとミオチッチに対し、新勢力としてオヴィンス・サンプルーミーシャ・サークノフジミ・マヌワに連勝してきたオズデミアと、アンドレイ・アルロフスキーアリスター・オーフレイムらを衝撃的な形で下してきたガヌーが脅威として迫る形となった。
しかしコーミエ対オズデミアは、これまで自分より身長もリーチも長いアンソニー・ジョンソンアレクサンダー・グスタフソン、そしてジョン・ジョーンズといった選手と死闘を繰り広げてきたコーミエに分があった。
1R開始直後からオズデミアが飛び込み気味でボクシングを挑むのに対して、まずはコーミエのディフェンス能力が目立った。クリンチやハンドワークで一発をかわしつつ、肩を思い切り入れたジャブ、そして左右の伸びるフックをコーミエは返してゆく。
ある程度打ち合ったところでコーミエはシングルレッグのテイクダウンで相手を倒し、オズデミアがバックを見せたところでRNCに入るがブザーでラウンド終了。
2Rは開始直後にすぐテイクダウン、ハーフガードからサイドに移行した後はマット・ヒューズポジションでオズデミアを磔にし、パンチ連打でレフェリーストップを呼び込んだ。
試合前からAKAのボクシングコーチも太鼓判をおしていたが、DCのボクシング能力は非常に高い。かつてのUFC214でのジョーンズ戦でも、試合を決められたハイとその後のロー(このローでDCは意識が混乱したと告白している)がなければ、ボクシング主体で優勢に進めていたのはどちらかと言えばDCの方だった。
オズデミアに対して、少しかがんだ姿勢から相手にかぶせるようなロシアンフック気味のパンチを繰り出してゆくのを見ると、コーミエは身長差のある選手との戦い方を身につけているのだろうと思う。オズデミアがパンチに絶対的な自信を持っていることを見越しながら、自分のフィールドに引きずり込んだという点で、コーミエの技術と経験ががっちり結びついた勝利だった。
ミオチッチ対ガヌーは、とにかくライジングスターとして現れたガヌーに注目が集まっていた(本来は「ンガヌー」なんだと思うが、英語の発音だとほぼ「エンガヌー」、日本のオフィシャルサイトでは「ガヌー」となっている)。
オーフレイムをKOしたアッパー・フロム・ヘルに象徴される打撃力、そして筋骨隆々の体格に加えて、カメルーンからの移民としてフランスでしばらく路上生活をしていたという逸話がクローズアップされ、非常にドラマティックな選手として取り上げられていた。
フランス語の番組も作られているが(下の動画)、これを見るとガヌーは山や河川で土砂を採掘する労働に12歳からずっと従事していたようだ(何となく、木村政彦も砂利採掘をしていたことが彷彿とさせられる)。学校はやめたが、この体験がいい「学校」になったとどこかで語ってもいた。
フランスへ渡った経緯については多くは語らず、不法に渡航したことが推測できる(だがボクシングで身を立てたくて土砂採掘労働から脱出したアフリカの若者に、他に何の手段があるか)。そして当初はボクシングをやるつもりだった彼は、移民施設でトレーナーを紹介され、それからMMAに(当初は気乗りせずに)進んでいったと言う。さらに本人へのインタビューを聞いていると、話し方には頭の良さも感じられる選手である。
しかし、ミオチッチがアンダードッグだったことはさすがに解せなかった。ミオチッチのここ数年の対戦相手はマーク・ハント、アンドレイ・アルロフスキー、ファブリシオ・ヴェウドゥム、アリスター・オーフレイム、そしてジュニオール・ドス・サントスという、ハイレベルなストライカーばかりで、彼ら全員にミオチッチは勝ってきた(ヴェウドゥムも、キングス・ジムで高度な打撃力を身につけていることは周知の事実だ)。
フルラウンドに渡る試合となったが、1Rからガヌーがアグレッシブにフックとアッパー中心に出てくるのに対し、ミオチッチは動き回りつつタックル、クリンチを織り交ぜながら鋭いストレートを入れる。
ガヌーが遠心力で威力を増したフックとアッパーを主に用いるタイプであるのに対して、ミオチッチは近い距離でも直線的に突いて効かせることができるストレート主体の選手だ。ミオチッチは今回、速いジャブに加えて遠くからのストレートも用い、ガヌーの振りの隙をついて当てていた。
2R以降はガヌーに明らかな疲れが見えた。ミオチッチは打撃を当てつつ、ガヌーが打ち気になったところでタックルを決める。倒し切れはしないものの、ガヌーをかがんだ状態に押し込め体力を奪ってゆく展開を作る。3R以降もミオチッチはタックルと打撃を混ぜながらガヌーのスタミナを削り、テイクダウンも奪ってゆく。以降のラウンドでガヌーは仁王立ちになる場面もあり、フルマークでミオチッチの完勝となった。
ところで、ミオチッチでいつも気になっていたのは、入場時の表情である。ジョー・ローガンがかつて中継中ジョークで「空っぽの表情」「パーク・キラー(公園の通り魔)」と表現したように、完全な無表情に徹しており、その不気味なまでの冷静さと落ち着きは際立っている。
しかし今回、試合前に読んだとある記事で、彼が救急消防士の仕事をUFCファイターと並行していまだにパートタイムで続けていることを知り(てっきり「元」消防士だと思い込んでいた)、その表情について腑に落ちたことがあった。緊急事態や救急救命で応急処置をしなければならない際には慌てず、冷静な対処を第一になさねばならないはずだ。そのこと自体が、MMAに臨む時にも活かされているのではないか。
この意味でミオチッチもガヌーも、ともに彼らの生き方の一環の中に格闘技があるのだ、と言っていいだろう。

2018年1月15日月曜日

UFCファイトナイト124:スティーブンスvs.ドゥホ

ジェレミー・スティーブンスvs.チェ・ドゥホ(UFCファイトナイト124・セントルイス
ビクトー・ベウフォートユライア・ホールが消滅、年明け初のUFC大会は当初の予定より一試合少なく開催。
マイケル・ジョンソンペイジ・ヴァンザンという、ネームがあるが階級を変えた選手たちがそれぞれダレン・エルキンスジェシカ=ローズ・クラークというベテラン勢に返り討ちにされる展開があったが(上の動画、エルキンスのRNCは見事だった)、ビッグネームのビクトー対ユライアが消えたことでやはり注目は「コリアン・スーパーボーイ」チェ・ドゥホの試合に集まっていた。大会用の無料試合動画にはドゥホの知名度が一挙に上がったカブ・スワンソン戦を流し、主催者側も推しまくっていた感がある。
韓国選手の中でドゥホは、「コリアン・ゾンビ」ジョン・チャンソンと共に「コリアン〜」と呼ばれているわけで、まあこういうあだ名が付くということはホームではないということだが、既にキャラクターが付いていて人気・知名度ともに高い。
ドゥホは試合前のインタビューでジョン・チャンソンやキム・ドンヒョンに対してリスペクトを述べているが、韓国の選手がUFCに出場し続けていることにはやはり強い意識があることをうかがわせた。また、徴兵前にチャンピオンまで登りつめたい旨にも触れていて、解説者たちはその事情にも触れていた。概してドゥホ中心に回っていた大会だ。
なお今回は同じチームMADからカン・ギュンホも出場、グイド・カネッティにスラムされながらも、三角絞めをラウンド終了直前で極め切っている。いったんカネッティは金網に押し付けてうまく逃れようとしたが、足を解かず食らいつき続けたギュンホに軍配が上がった。
チェ・ドゥホは並外れたスピードで繰り出されるジャブとストレートが一番の特徴だが、(一時期UFCの放送でも話していた)コメンテーターのロビン・ブラックが韓国で見てきたところによれば、MMAの練習としてフェンシングの練習を取り入れているらしく、そう言われるとあの打撃のタイミングや的確さは頷けるものがある気がする。
試合は、1Rの間はドゥホがローレッグキックを繰り出しつつ、蹴りで距離を支配していた。ドゥホは近づいては離れ、ローとローレッグキックを当てる。スティーブンスが間合いを詰めてもうまく下がり、ドゥホの蹴りが当たるがスティーブンスのパンチは届かない距離を保ち続けることができた。両者様子見のラウンド。
しかし2Rに入ってスティーブンスは距離を詰め、乱打戦に持ち込んだ。ドゥホがアッパーを外したのをきっかけに距離が詰まり、両者パンチの距離となる。ローレッグキックにスティーブンスが右を合わせると、ドゥホは被弾しながらじりじりと後退。ケージ際を下がりながら打撃を交わしたところで右を喰らい、ダウン。そのままオーバーハンドの右→左肘のパウンド連打でレフェリーストップとなった。
スティーブンスは当然ながら、ドゥホ対スワンソン戦も研究してきていただろう。スワンソンの場合、ドゥホに対してボディワークを使いまくって見えない角度からフックを当てたりなど、撹乱する戦術をとっていた。ドゥホが持つ一番の強みは比類ないスピードと的確さで出す「突き」のようなストレートだが、逆に見ると、その打撃の距離を活かせない時には威力がかなり削がれてしまっている。
スワンソンは左右に的を絞らせないことでドゥホの直線的な動きを殺していたが、スティーブンスの場合、パンチの威力と乱打でドゥホの距離を潰し、押し切った形だ。インタビューでは、次はブライアン・オルテガでも誰でもいいとアピールした。一方のドゥホはスワンソン戦に続き、被弾のダメージ蓄積が心配だ。トップ戦線のタフさに巻き込まれてやられてしまっているので、長所を活かしつつ喰らわないでいられるような、スタイルの見直しも必要かもしれない。