2018年7月5日木曜日

UFCファイトナイト132:カウボーイvs.エドワーズ

レオン・エドワーズvs.ドナルド・セローニ(UFCファイトナイト132
試合が終わってから、だいぶ間が空いてしまった。もう少しタイムリーに書ければいいのだが、やむを得ない。これはPV数が目的ではなく、一つは見た試合の記録として、もう一つは書くことを通じて自分の格闘技を見る目を養ってゆくために付けているブログなので、切らさない程度に細く長く更新をしてゆくつもりだ。
シンガポールで開催されたファイトナイトシリーズということで、アジア地域出身の選手が多くフィーチャーされていた。日本人選手が5人出ていたことは周知の通り。その中で勝利を収めたのは佐々木憂流迦のみである。
かつて佐々木はONE DAYで、NYのジムで打撃に力を入れていることが映されていたが、今回はジェネル・ラウザを1R最初から寝かし続けた。2Rも序盤は少し打撃の交換をしたが、最終的にはテイクダウンからコントロールし切った末にバックを呼び込み、RNCによる勝利。バックを取った際に歓声が上がっていたのが印象的だった。
欠場選手の代打で割と緊急発進だったこともあるだろうし、前戦で敗北しているからかもしれないが、徹底的に自分の得意なフィールドに引き込む試合運び。中途半端なことをせず、徹底したことが呼び込んだ勝ちだろう。今回はアルジャメイン・スターリングがセコンドに入っていたが、マット・セラとレイ・ロンゴのジムで練習をしているようである。
井上直樹マット・シュネルは、序盤はシュネルのボクシングスキルが上回っていることが目立った。隙を突く左フックをよく被弾していたものの、井上も健闘してストレートを時折シュネルの顎に入れていた。
圧倒的な敗北という印象ではなく、経験の差が出た部分も大きいので、次戦以降の糧にできれば成長してゆくのは間違いない。経験と力をうまく組み合わすことができた者が強いのだろうが、井上は若く体もまだ細いので、これからだろう。
オーストラリアの注目株であるジェイク・マシューズと当たった安西信昌だったが、かなり体格差が目立つ組み合わせであった。序盤安西はプレッシャーをかけてテイクダウンを狙うものの、首相撲からの膝蹴りを食らうと、そこから足を取られテイクダウンされてしまう。その後はそのまま、パウンドからバックを許すとRNCで切って落とされた。最初のプレッシャーをかけるのは作戦だったのだろうが、マシューズの体の力が優った形だ。
ACBの強豪、ピョートル・ヤンのUFC初戦を迎え撃った石原夜叉坊だったが、厳しい結果となった。夜叉坊は左右に角度をとり、フットワークと蹴りでヤンのプレッシャーを散らそうとする戦い方だったが、そう体格が大きいわけではないヤンのどっしりしたプレッシャーに押されてゆく。
フィニッシュ前に出されたヤンのコンビネーションは速い上に強弱がついている連打であり、蹴りを含めて7・8発が切れ目なく出される点は驚異である。その直後に左ストレートで石原ダウン、一度離れた後に鋭い右でヤンが石原を沈め、試合を終えた。タイガームエタイ仕込みと思われるパワーとスピードの勝利であるが、終始オクタゴンの主導権を奪われてしまっていたのが痛い。
リー・ジンリャン阿部大治の試合もまた、少々経験の差があり過ぎたと言ってよい。阿部はドゥエイン・ラドウィックのジムで練習をしていたようだが、UFCのベテランと言ってよいリーとの力の差はカバーできなかった。リーは序盤焦らずに蹴りとフェイントを中心に阿部の攻撃を読んでゆき、落ち着いた試合運びを見せる。阿部のカウンターも時折入るが、リーのインロー/アウトローから入る打撃コンビネーションのペースに巻き込まれてゆく。
2R以降、阿部はコツコツ入れられるローの距離に完全に支配されてゆき、パンチを見切ったリーの一方的なペースとなる。タイトな打撃で最後までリーの有利は全く揺るがなかった。阿部は、パンチを数多く被弾したにもかかわらずフルラウンドを健闘した点は評価されるだろうが、勝敗はジャッジの判定を待つまでもなく明らかであった。
レオン・エドワーズドナルド・セローニは5Rにわたる試合となったので、かいつまんで。セローニはフットワークを見る限り調子は良さそうで、いつものスロースタートではなく序盤から蹴りを出してゆく。エドワーズがクリンチから左肘を出すとカウボーイは出血。エドワーズは組みからの膝などの攻撃が上手く、蹴りも鋭い。セローニはフットワークを使いたいところだが、近距離でのクリンチワーク・遠距離の蹴りに牽制されて近づけずに1R終了。
2R、セローニは左右に動き角度をつけてエドワーズに攻撃しようとする。クリンチワークはセローニも長けているはずだが、エドワーズはそれを上回っており、そこから攻撃に繋げてゆくスタイルを確立している。ジョン・ジョーンズの戦い方から多く学んでいる感じで、どの距離で何を出すかを把握し、瞬時に使い分けることに長けている。相手に対する反応が早く、ミドルもよく決まっていた。
3Rはセローニがプレッシャーをかけてゆき、そこからのコンビネーションで打開を図るが、エドワーズはうまく距離をかわし致命傷を受けない。中盤、セローニはタックルも交えつつ、ボディも狙い下からの攻撃を進めてゆく。このラウンドの打撃ヒット数はセローニが多かったが、与えたダメージはそれほどでもない感じである。
4R、 セローニがバランスを崩し立ち上がったところでエドワードがハイを入れるが、クリティカルには決まらない。中盤で一度セローニはエドワーズに腰をつかせるが、すぐ立ち上がられてしまう。エドワーズはバランスも優れており、ハイを掴まれても倒されない。
ラストラウンド、残り1分30秒あたりでセローニはテイクダウンに成功するが、やはり抑え込むことはできない。膝への蹴り、ローを交えてゆくが、最後はセローニがマットを指差して打ち合いを示唆すると、エドワーズもマットを指差し、パンチの交換を行ったところで時間切れ。ジャッジは3人とも48-47で、エドワーズの勝利となった。
エドワーズの戦い方はジョーンズや、時折コナー・マクレガーを彷彿とさせるような動きで、どっしり構えたところからボディワークやフェイントを用いつつ、相手の穴をついてゆく攻撃をする。バランスの取り方に少し空手的な要素もあり、それもうまくMMAに取り入れている感じだ。
この点、エドワーズは試合前会見のスピーチで自分が「オールドスクール」ではなく「ニュースクール」に属すると語って、セローニとの違いを強調していた言葉の通りであった。イスラエル・アデサニャなどとも通じる動き方であり、参考にしている選手の違いがあると、世代差も出てくるということだろうか。
一方、負けた日本の選手は主導権を握られるとそのままで、不安定な姿勢に追い込まれた形で攻撃を出さざるを得なくなっていたのが残念だった。セローニは負けたものの、一方的にはならず、試合にはスウィングがあった。不利になっても主導権を渡し切らず、競り合って粘った末に勝つ試合運びも、ぜひとも見たいと思う。