イスラエル・アデサニャvs.ブラッド・タヴァレス(TUFシーズン27:フィナーレ)
ダニエル・コーミエvs.スティペ・ミオチッチ(UFC226)
2日連続で開催されたTUFシリーズフィナーレとナンバーシリーズ。一つにまとめて掲載する。
まずは、キャリア無敗の選手のみ集められたTUFシリーズ27のフィナーレから。
シリーズの本編では選手同士が和気藹々とした雰囲気で、
スティペ・ミオチッチと
ダニエル・コーミエのチームに分かれて戦っていた。中でもアルパカの毛皮刈りを生業としている変わり者の
ジョン・グンサーがムードメイカーとなり、パーティなんかも楽しそうにしていたが、ミオチッチとコーミエがそもそも互いにリスペクトを示している上に、無敗同士という戦績を尊重し合っての仲の良さだろう。
ちなみにチームの戦績は、コーミエ側の圧勝だった。
TUF参加選手の中では、
コナー・マクレガー所属で有名なSBGアイルランドの選手、
ブラッド・カトナがかなりの強さを示していた。コーチのジョン・カヴァナと
アーテム・ロボフがセコンドに入っていたが、ジムに(当然だが)マクレガータイプの選手だけではないことを示す機会となっていた。
メインは
イスラエル・アデサニャ対
ブラッド・タヴァレス。アデサニャは一試合前の
マーヴィン・ヴェットーリ戦が評判に比べ目覚ましいパフォーマンスではなかったので、今回はメイン起用ということもあり「本物」だと示したい所だ(ヴェットーリは強かったと思う)。ランキング8位のタヴァレスはベテランかつタフなファイターということで、アデサニャにとっての試金石的な試合だ。
1Rからアデサニャはフェイントを多用しつつローを中心に攻撃、一方のタヴァレスはパンチから組みを狙ってゆく形。
序盤でタヴァレスはケージ際で組むも、すぐに離される。アデサニャは手を伸ばしたり肘の仕草をフェイントに使ったりしながら距離を保ち、そこからの蹴りを入れるパターン。タヴァレスがタックルで片足を持ち上げるシーンもあったが、テイクダウンには至らないままスタンド。
ラウンド最後にアデサニャが突如回転してイマナリ・ロールをするが、タヴァレスに潰された形で時間切れ。
2R開始前、アデサニャはハーブ・ディーンに伸ばした手の指を開かないように注意される。アデサニャはタックル対策で手を下げ気味の構え、頻繁にスタンスを変えている。
このラウンド、アデサニャがパンチからハイを2回ほど決めると、タヴァレスはタックルに行くがやはり倒すまでには至らず、打撃戦に戻る。アデサニャが意外なほど身長が高くリーチが長いこともあって、タヴァレスはなかなか中に入れない。
ラウンド中盤でハーブ・ディーンに指を広げて出さないようアデサニャが再び注意されるが、再開直後に出した左ミドルがタヴァレスのレバーに入り、姿勢を崩したタヴァレスがタックルに逃げようとするところを足払いでコカした。明らかに効いていたが、その後タヴァレスが持ち直してラウンド終了。アデサニャのラウンドである。
3R開始直後にタヴァレスはストレートを当てるも、すぐアデサニャの距離に戻る。
1分20秒ほど経過したところでタヴァレスがスッと近距離に入ることに成功するが、即座にアデサニャは膝蹴りをヒットさせて遠ざかる。このラウンドはタヴァレスが近距離に入ってゆくが、するとアデサニャの首相撲と足払いに捌かれ、転ばされてしまう。アデサニャのタックル切りを崩すことも難しく、ケージに詰めるが体の捌きでうまく逃げられた。
アデサニャはバックスピンの肘、さらに右オーバーハンドから首相撲での膝と、タヴァレスを追い詰めてゆく。右から左ハイ等のコンビを用い、ラウンド終盤にはもう一度ハイも入れた。
4R。パンチの交錯からタヴァレスは攻めようとするがやはり詰めきれず、ケージに詰めてタックルにゆく。片足を取り、この試合初のテイクダウンに成功する。アデサニャは三角を狙うもすぐ外れ、タヴァレスはバックを取って抑えようとするが有効打なしに終わる。
するとアデサニャが相手の手を取って腕がらみを仕掛け、タヴァレスを倒し上を取ると、相手を座らせたまま何発かパンチを入れることに成功した。その後タヴァレスが立ち上がりスタンドに戻ったが、アデサニャがタヴァレスの手を握った後でそのまま肘を入れ、タヴァレスが出血。一瞬ハーブ・ディーンが試合を止めるがすぐ再開。
アデサニャがリズムをつかみ、ボディを入れるコンビネーションを用いたりして主導権を握ると、残り30秒でケージ際に詰めて膝蹴りを相手の腹から顎へと何発か入れ、終了。
5R。タヴァレスの右目の瞼がざっくりと切れている。タヴァレスはレスラーではない感じで、組んでもその後のドライブまで行けず、2度目のタックルが切られた後では上を取られ亀状態になってしまう。アデサニャはパウンドを何発か入れ、足を取られそうになったところで立つ。
このラウンド、タヴァレスはタックルに活路を見出そうとするが、アデサニャのタックル切りは徹底していた。アデサニャはタックルを切った後で足を越えてサイドに行く余裕も見せ、タヴァレスが立ったところで膝を入れる。
アデサニャは背筋力も相当強いのだろう。最後はトップを取った状態でブザーとなった。
試合はジャッジ3名のユナニマスディジョンでアデサニャの勝利。
ジョン・ジョーンズになぞらえられることも多い(し、私もやはり連想した)アデサニャだが、本人はそれは拒否しているらしい。
確かに、リーチを活かしたクレバーな戦い方や定石にとらわれない動きなどを見ると、どうしてもジョーンズを彷彿としてしまうが、今回の動き方などを見るとちょっと違うかなとも感じた。ネット上には
TJ・ディラショーに似ているという言葉もあったが、そういう要素もある。
本人はテコンドーから格闘技を始め、子供のころはヒップホップダンスなどを真似ることが得意で、動きをコピーすることが昔から非常に上手かったようだ。もちろんジョーンズ、コナー・マクレガー、それからモハメド・アリから戦い方を学んでいるとのことだが、戦局に必要な動きをすぐに引き出せる頭の回転の速さと、予想外の動きで相手を撹乱するところなど、スタイルというよりも根本的な構えの部分でジョーンズに似ていると言えるだろう。喋り方を聞いても「ストリートワイズ」というか、いわゆる勉学の頭の良さとは違う頭の良さを感じさせる。
UFC226のコーミエ対ミオチッチは、個人的にはどちらも好きなファイターだけに見たさ半分、見たくなさ半分といったところだった。ミオチッチは、入場と音楽も堂に入っていて格好いい(下は
UFC211時の動画)。
UFCはランキング上位に入るまでは実力勝負だが、メインを張るようになると急激にプロレス化してゆく中で試合をするという「ザ・資本主義」の構造をしているので(日本のイベントだとそれが「中規模団体イベント/民放イベント」という棲み分けになる。つまりこれは「スポーツかプロレスか」というより「視聴率/PPV数が入るか否か」というメディアの問題だ)、
UFC220で
フランシス・ エンガヌーに勝利したミオチッチの相手が最早階級内に見当たらなかったこともあり、コーミエとの一戦が組まれることになった。
しかし、試合は1RKOという、衝撃的な展開を迎えた。
1R冒頭からミオチッチはコーミエにプレッシャーをかけてゆく。ケージ際まで詰めるが、コーミエが首に手を巻くと警戒したミオチッチが離れる。コーミエはローも入れるが、それにミオチッチは軽くローを返しつつワンツーを入れる。距離が縮まったところでコーミエはやはり首に手を巻きアッパー。ミオチッチは詰めてケージに押し込みスタンドのバックを取る。向き合ったコーミエと互いに膝を入れつつ離れる。
コーミエは両手を伸ばしながらジャブを入れつつ、ミオチッチの打撃はボディワークで避ける形。再びミオチッチが膝蹴りを交えながらコーミエをケージに詰めるが、離れる。コーミエはスネへの蹴りを交えるが、ミオチッチがワンツーを何回か出してプレッシャーを高めてゆく。しかし、その攻撃の切れ目にコーミエは右を入れて効かせている。
コーミエが左ロー→右→ハイを出すが、右の指が目に入り、少しレフェリーが止める。すぐに再開後、コーミエの左ミドルに対しミオチッチはやはりワンツーコンビで応戦してゆく。
残り30秒近く、ケージ中央でワンツー同士の交錯。その直後、コーミエは再び首に左手を巻くと、その腕で素早く脇を差す。と、そこから流れるように右フックを出すとミオチッチにクリーンヒット! ミオチッチは仰向けに倒れ、そのままコーミエがパウンドで試合を決めた。
最後の首クリンチから脇差し→右は明らかに狙っていた動きであった。試合後、コーミエはミオチッチの弱点として、クリンチの際にはどの試合でも左のガードが下がっていたことを見抜いていたと語っていた。
コーミエの得意技に、首クリンチの状態で出すアッパー→フックがあったのは以前からだが、今回は手を首から脇差しに回し、そこに相手が気を取られて生まれる隙に右フックを入れるという高等テクニックで、これはレスリングの動きを昇華したボクシングとすら言えるかもしれない。
コーミエのオリンピック級のレスリングが遺憾なく生かされた動きであり、MMAの歴史の中でも一つの新たな技術が発明された感じだ。
試合後はブロック・レスナーが乱入、コーミエを突き飛ばして煽ったが、もともと両者はレスリングの試合で互いをよく知っており、家族ぐるみでの付き合いもあったらしい…まあ、そういうことで。