前の試合では、スクランブル発進で階級も違うオヴィンス・サン=プルーのヴァンフルー・チョークにより秒殺されてしまったが、それによって契約をもぎとった。この体面にはこだわらないあり方を見て、岡見を批判することはひょっとしたら容易なのかも知れない。
だが、人にはそれぞれスタイル、そして限界がある。それはMMAというものが究極的に言えば無際限の変化を要求することと、矛盾する事柄でもある。人は無際限には変化することはできないし、逆に言えば、そこに意義がある。自分のスタイルがUFC的ではないという限界を悟りつつ、そこにこだわりながら勝利へとこぎつけた岡見の戦い方にはある種の感慨を禁じ得ないものがある。
岡見は「何を捨てるか」という選択をした。次戦で決してランキングの選手と当てられることはないだろうが、このスタイルでどこまで行けるか、やれるところまでやって欲しい。それを見たい気がする。
ボーシュは後半ラウンドに盛り返してくることが多いが、そこに至らせずに圧倒しきった点、アントニオ・カルロスJr.が非常に強くなっていることを感じさせる。彼は5連続勝利中であり、今後の動向には期待できるだろう。
この試合の判定はミシェル・ウォーターソン対コートニー・ケーシー=サンチェスの結果とともに若干不可解だったが、フェイバリットの方がともに勝利。
また他には、チャールズ・オリヴェイラの打撃がまるで堀口恭司のようなスタイルになっていたことにはちょっと驚いた。
1R冒頭から、ゲイジーがローを出すタイミングで、ポワリエは素早く回転の早いコンビネーションを合わせてゆく。ゲイジーは距離を詰めてゆくが、ポワリエは細かな連打と距離の設定、また常に角度をとってゆくことでゲイジーの攻めを交わしつつ攻撃する。
残り2分前あたりから、ポワリエの回転力に磨きがかかってゆく。一打一打の重さではなく、スピードを主としたパンチをボディや蹴りも混ぜながら連打してゆくことで、ゲイジーの反撃の芽を潰していった。
ラウンド最後にポワリエはシングルレッグのタックル、ゲイジーは胴廻し回転蹴りに行くが、両者ともに不発でブザー。
ラウンド間のコーナーの指示で「マタドールだ」と言われていたように、ポワリエの戦い方は闘牛士のようであった。ゲイジーは一発一発を強く打つことで、次の打撃まで隙ができるのに対し、ポワリエは対照的に細かく長いジャブ、それに本当に早いコンビネーションの連打によって、ゲイジーが攻撃する余地を奪っていった。おそらく、ゲイジーのガードの仕方でこの攻撃が有効だと事前に研究していたのだろう。
ただ、ゲイジーのローは効いていた様子だ。さらに残り3分のところでゲイジーの右がヒットし、ポワリエはケージ側まで後退。ゲイジーはここでアッパーも交えながら詰めるが、ポワリエはクリンチで回復を図る。ゲイジーは膝などを当てるも、再び両者分かれ打撃戦へ。
ゲイジーは大きく息を吐きながらも、徐々に打撃を当ててくる。ここは局面が逆転しそうなラウンドだったが、ゲイジーは乗ってきそうなところで再びアイポークをしてしまい、一旦休みの上に1ポイントマイナス。再開後はゲイジーが逆にアイポークされるが、そのままラウンド終了。
ゲイジーは耐えようとするがケージによろめいて下がり、アッパーも交えたパンチの連打をくらうと膝をつく。それを見たハーブ・ディーンが試合を止めた。
ゲイジーはかつての五味隆典を彷彿とさせるスタイルだが、そういった戦い方をクレバーにかわしつつ、かつパワーも見せつけたという意味で、ポワリエは頭脳戦に勝ちつつ「総合格闘技」としても魅せる試合をした。ポワリエの次はタイトル挑戦になると、デイナ・ホワイトも述べている。