これは個人的な印象だが、何というか、ロシアンファイターは総じて「いかつい」。全体的に佇まいが他国の選手よりも(なお)ゴツく、よく言って「峻厳」というか、普通に言えば近寄りがたい雰囲気を醸し出している気がする。
以前も少し書いたように、それらの地域では格闘技の社会的地位が高く、格闘技文化が相対的に根付いている。よく言われるロシアの強さについては、「ロシア人は体質的に強い」というような本質論よりも、まず単純に、競技人口の裾野の広さに注目するべきだ。
その意味で、総合格闘技というジャンル全体の認知度のみならず、魅力度のアップと普及こそがひいては全体を強くすると言えそうだ。格闘技の持つ文化がどういう方向に進んで行くのか、それが重要だろう。…まあ言うは易しだけど。
全体としては、タイガームエタイ仕込みのクリンチとダーティボクシングにすぐれたヤンが優勢だったにもかかわらず、ソンの全く引かないファイトと笑顔のインパクトが強烈な印象を残した。
ソンのゾンビ性にヤンは少々とまどっているようにすら見え、ソンは解説のダン・ハーディに「もう一度見たい」と語らしめた。負けはしたものの、ソンはプレリム注目選手の一人になったのではないだろうか。
ブラホビッチは高レベルなサブミッションゲームを制し、バックからの変則的な肩固めでクリロフの連勝を止め、4連勝をマークした。
1R、オレイニクは低く構え、タックルの姿勢を見せつつ前に出る。ハントはジャブや右ローを見せつつ、右へ回って行く。オレイニク左右を出しながら飛び込むも距離は変わらず。ハントはジャブを出しながら下がって行く。
一度両者の体が合うもすぐ離れ、オレイニクはひざ下を狙うオブリークキックを出すと、互いにパンチで牽制。オレイニクは体を斜めにしてタックルにも行けるフェイントを見せつつ、やはり左右のコンビネーションで距離を詰めようとする。ハントはローを返して行く。
再びオレイニクのオブリークキックの後、ハントが右ローを出すと、オレイニクの左足に効き、少し動きが鈍くなる。オレイニクが足を触りに来たのを外した後、徐々にハントが出てきそうなところを左で牽制する。
ハントが左フックを出すもオレイニクはガード。右を出しながら突っ込むが、ハントはやはりクリンチを嫌い距離を取る。
オレイニク、オブリークキックから右の繰り返し。ハントは左を出し、オレイニクがタックルに来たのを切るが、オレイニクもしつこくは追わない。
ハント、ローを外すが、そのタイミングで両者右パンチが交錯。体が一瞬重なるが、オレイニクの体をハント振り払う。
下がったハントが右を出したタイミングでオレイニクが左を出すと、ハントが右足のバランスを崩して一瞬膝をつくがすぐ立ち上がる。
しばらく手の取り合いをしていたが、オレイニクが立ち上がる姿勢を見せると、つられてハントが上体を起こしかけたところでたすき掛けをかけなおし、続いて首に手を回すとそのままRNCの体制に一気に持ち込み、タップを呼び込んだ。
しかしハントのUFCとの契約もあと一試合で、再契約はしない模様だ。以前からUFCに対して怒りを表にすることを恐れず、ステロイダー達に対する罵りも激しいハントだが、それは長い戦績の中で様々な団体を渡り、自分の力を証明してきたハントならではの説得力と道理を感じさせるものだ。
引退が遠いとは言えないのだろうが、彼だからこそ魅せられたMMAでの姿勢というものを引き継ぐような存在が見当たらない、かけがえのない存在でありかつ生きるレジェンドである。ひいきだが、あと一試合は勝利で飾ってもらいたいと思う。