2018年7月13日金曜日

TUFシーズン27:フィナーレ/UFC226:ミオチッチvs.コーミエ

イスラエル・アデサニャvs.ブラッド・タヴァレス(TUFシーズン27:フィナー
ダニエル・コーミエvs.スティペ・ミオチッチ(UFC226
2日連続で開催されたTUFシリーズフィナーレとナンバーシリーズ。一つにまとめて掲載する。
まずは、キャリア無敗の選手のみ集められたTUFシリーズ27のフィナーレから。
シリーズの本編では選手同士が和気藹々とした雰囲気で、スティペ・ミオチッチダニエル・コーミエのチームに分かれて戦っていた。中でもアルパカの毛皮刈りを生業としている変わり者のジョン・グンサーがムードメイカーとなり、パーティなんかも楽しそうにしていたが、ミオチッチとコーミエがそもそも互いにリスペクトを示している上に、無敗同士という戦績を尊重し合っての仲の良さだろう。
ちなみにチームの戦績は、コーミエ側の圧勝だった。
TUF参加選手の中では、コナー・マクレガー所属で有名なSBGアイルランドの選手、ブラッド・カトナがかなりの強さを示していた。コーチのジョン・カヴァナとアーテム・ロボフがセコンドに入っていたが、ジムに(当然だが)マクレガータイプの選手だけではないことを示す機会となっていた。
メインはイスラエル・アデサニャブラッド・タヴァレス。アデサニャは一試合前のマーヴィン・ヴェットーリ戦が評判に比べ目覚ましいパフォーマンスではなかったので、今回はメイン起用ということもあり「本物」だと示したい所だ(ヴェットーリは強かったと思う)。ランキング8位のタヴァレスはベテランかつタフなファイターということで、アデサニャにとっての試金石的な試合だ。
1Rからアデサニャはフェイントを多用しつつローを中心に攻撃、一方のタヴァレスはパンチから組みを狙ってゆく形。
序盤でタヴァレスはケージ際で組むも、すぐに離される。アデサニャは手を伸ばしたり肘の仕草をフェイントに使ったりしながら距離を保ち、そこからの蹴りを入れるパターン。タヴァレスがタックルで片足を持ち上げるシーンもあったが、テイクダウンには至らないままスタンド。
ラウンド最後にアデサニャが突如回転してイマナリ・ロールをするが、タヴァレスに潰された形で時間切れ。
2R開始前、アデサニャはハーブ・ディーンに伸ばした手の指を開かないように注意される。アデサニャはタックル対策で手を下げ気味の構え、頻繁にスタンスを変えている。
このラウンド、アデサニャがパンチからハイを2回ほど決めると、タヴァレスはタックルに行くがやはり倒すまでには至らず、打撃戦に戻る。アデサニャが意外なほど身長が高くリーチが長いこともあって、タヴァレスはなかなか中に入れない。
ラウンド中盤でハーブ・ディーンに指を広げて出さないようアデサニャが再び注意されるが、再開直後に出した左ミドルがタヴァレスのレバーに入り、姿勢を崩したタヴァレスがタックルに逃げようとするところを足払いでコカした。明らかに効いていたが、その後タヴァレスが持ち直してラウンド終了。アデサニャのラウンドである。
3R開始直後にタヴァレスはストレートを当てるも、すぐアデサニャの距離に戻る。
1分20秒ほど経過したところでタヴァレスがスッと近距離に入ることに成功するが、即座にアデサニャは膝蹴りをヒットさせて遠ざかる。このラウンドはタヴァレスが近距離に入ってゆくが、するとアデサニャの首相撲と足払いに捌かれ、転ばされてしまう。アデサニャのタックル切りを崩すことも難しく、ケージに詰めるが体の捌きでうまく逃げられた。
アデサニャはバックスピンの肘、さらに右オーバーハンドから首相撲での膝と、タヴァレスを追い詰めてゆく。右から左ハイ等のコンビを用い、ラウンド終盤にはもう一度ハイも入れた。
4R。パンチの交錯からタヴァレスは攻めようとするがやはり詰めきれず、ケージに詰めてタックルにゆく。片足を取り、この試合初のテイクダウンに成功する。アデサニャは三角を狙うもすぐ外れ、タヴァレスはバックを取って抑えようとするが有効打なしに終わる。
するとアデサニャが相手の手を取って腕がらみを仕掛け、タヴァレスを倒し上を取ると、相手を座らせたまま何発かパンチを入れることに成功した。その後タヴァレスが立ち上がりスタンドに戻ったが、アデサニャがタヴァレスの手を握った後でそのまま肘を入れ、タヴァレスが出血。一瞬ハーブ・ディーンが試合を止めるがすぐ再開。
アデサニャがリズムをつかみ、ボディを入れるコンビネーションを用いたりして主導権を握ると、残り30秒でケージ際に詰めて膝蹴りを相手の腹から顎へと何発か入れ、終了。
5R。タヴァレスの右目の瞼がざっくりと切れている。タヴァレスはレスラーではない感じで、組んでもその後のドライブまで行けず、2度目のタックルが切られた後では上を取られ亀状態になってしまう。アデサニャはパウンドを何発か入れ、足を取られそうになったところで立つ。
このラウンド、タヴァレスはタックルに活路を見出そうとするが、アデサニャのタックル切りは徹底していた。アデサニャはタックルを切った後で足を越えてサイドに行く余裕も見せ、タヴァレスが立ったところで膝を入れる。
アデサニャは背筋力も相当強いのだろう。最後はトップを取った状態でブザーとなった。
試合はジャッジ3名のユナニマスディジョンでアデサニャの勝利。ジョン・ジョーンズになぞらえられることも多い(し、私もやはり連想した)アデサニャだが、本人はそれは拒否しているらしい。
確かに、リーチを活かしたクレバーな戦い方や定石にとらわれない動きなどを見ると、どうしてもジョーンズを彷彿としてしまうが、今回の動き方などを見るとちょっと違うかなとも感じた。ネット上にはTJ・ディラショーに似ているという言葉もあったが、そういう要素もある。
本人はテコンドーから格闘技を始め、子供のころはヒップホップダンスなどを真似ることが得意で、動きをコピーすることが昔から非常に上手かったようだ。もちろんジョーンズ、コナー・マクレガー、それからモハメド・アリから戦い方を学んでいるとのことだが、戦局に必要な動きをすぐに引き出せる頭の回転の速さと、予想外の動きで相手を撹乱するところなど、スタイルというよりも根本的な構えの部分でジョーンズに似ていると言えるだろう。喋り方を聞いても「ストリートワイズ」というか、いわゆる勉学の頭の良さとは違う頭の良さを感じさせる。
UFC226のコーミエ対ミオチッチは、個人的にはどちらも好きなファイターだけに見たさ半分、見たくなさ半分といったところだった。ミオチッチは、入場と音楽も堂に入っていて格好いい(下はUFC211時の動画)。
UFCはランキング上位に入るまでは実力勝負だが、メインを張るようになると急激にプロレス化してゆく中で試合をするという「ザ・資本主義」の構造をしているので(日本のイベントだとそれが「中規模団体イベント/民放イベント」という棲み分けになる。つまりこれは「スポーツかプロレスか」というより「視聴率/PPV数が入るか否か」というメディアの問題だ)、UFC220フランシス・ エンガヌーに勝利したミオチッチの相手が最早階級内に見当たらなかったこともあり、コーミエとの一戦が組まれることになった。
しかし、試合は1RKOという、衝撃的な展開を迎えた。
1R冒頭からミオチッチはコーミエにプレッシャーをかけてゆく。ケージ際まで詰めるが、コーミエが首に手を巻くと警戒したミオチッチが離れる。コーミエはローも入れるが、それにミオチッチは軽くローを返しつつワンツーを入れる。距離が縮まったところでコーミエはやはり首に手を巻きアッパー。ミオチッチは詰めてケージに押し込みスタンドのバックを取る。向き合ったコーミエと互いに膝を入れつつ離れる。
コーミエは両手を伸ばしながらジャブを入れつつ、ミオチッチの打撃はボディワークで避ける形。再びミオチッチが膝蹴りを交えながらコーミエをケージに詰めるが、離れる。コーミエはスネへの蹴りを交えるが、ミオチッチがワンツーを何回か出してプレッシャーを高めてゆく。しかし、その攻撃の切れ目にコーミエは右を入れて効かせている。
コーミエが左ロー→右→ハイを出すが、右の指が目に入り、少しレフェリーが止める。すぐに再開後、コーミエの左ミドルに対しミオチッチはやはりワンツーコンビで応戦してゆく。
残り30秒近く、ケージ中央でワンツー同士の交錯。その直後、コーミエは再び首に左手を巻くと、その腕で素早く脇を差す。と、そこから流れるように右フックを出すとミオチッチにクリーンヒット! ミオチッチは仰向けに倒れ、そのままコーミエがパウンドで試合を決めた。
最後の首クリンチから脇差し→右は明らかに狙っていた動きであった。試合後、コーミエはミオチッチの弱点として、クリンチの際にはどの試合でも左のガードが下がっていたことを見抜いていたと語っていた。
コーミエの得意技に、首クリンチの状態で出すアッパー→フックがあったのは以前からだが、今回は手を首から脇差しに回し、そこに相手が気を取られて生まれる隙に右フックを入れるという高等テクニックで、これはレスリングの動きを昇華したボクシングとすら言えるかもしれない。
コーミエのオリンピック級のレスリングが遺憾なく生かされた動きであり、MMAの歴史の中でも一つの新たな技術が発明された感じだ。
試合後はブロック・レスナーが乱入、コーミエを突き飛ばして煽ったが、もともと両者はレスリングの試合で互いをよく知っており、家族ぐるみでの付き合いもあったらしい…まあ、そういうことで。

2018年7月5日木曜日

UFCファイトナイト132:カウボーイvs.エドワーズ

レオン・エドワーズvs.ドナルド・セローニ(UFCファイトナイト132
試合が終わってから、だいぶ間が空いてしまった。もう少しタイムリーに書ければいいのだが、やむを得ない。これはPV数が目的ではなく、一つは見た試合の記録として、もう一つは書くことを通じて自分の格闘技を見る目を養ってゆくために付けているブログなので、切らさない程度に細く長く更新をしてゆくつもりだ。
シンガポールで開催されたファイトナイトシリーズということで、アジア地域出身の選手が多くフィーチャーされていた。日本人選手が5人出ていたことは周知の通り。その中で勝利を収めたのは佐々木憂流迦のみである。
かつて佐々木はONE DAYで、NYのジムで打撃に力を入れていることが映されていたが、今回はジェネル・ラウザを1R最初から寝かし続けた。2Rも序盤は少し打撃の交換をしたが、最終的にはテイクダウンからコントロールし切った末にバックを呼び込み、RNCによる勝利。バックを取った際に歓声が上がっていたのが印象的だった。
欠場選手の代打で割と緊急発進だったこともあるだろうし、前戦で敗北しているからかもしれないが、徹底的に自分の得意なフィールドに引き込む試合運び。中途半端なことをせず、徹底したことが呼び込んだ勝ちだろう。今回はアルジャメイン・スターリングがセコンドに入っていたが、マット・セラとレイ・ロンゴのジムで練習をしているようである。
井上直樹マット・シュネルは、序盤はシュネルのボクシングスキルが上回っていることが目立った。隙を突く左フックをよく被弾していたものの、井上も健闘してストレートを時折シュネルの顎に入れていた。
圧倒的な敗北という印象ではなく、経験の差が出た部分も大きいので、次戦以降の糧にできれば成長してゆくのは間違いない。経験と力をうまく組み合わすことができた者が強いのだろうが、井上は若く体もまだ細いので、これからだろう。
オーストラリアの注目株であるジェイク・マシューズと当たった安西信昌だったが、かなり体格差が目立つ組み合わせであった。序盤安西はプレッシャーをかけてテイクダウンを狙うものの、首相撲からの膝蹴りを食らうと、そこから足を取られテイクダウンされてしまう。その後はそのまま、パウンドからバックを許すとRNCで切って落とされた。最初のプレッシャーをかけるのは作戦だったのだろうが、マシューズの体の力が優った形だ。
ACBの強豪、ピョートル・ヤンのUFC初戦を迎え撃った石原夜叉坊だったが、厳しい結果となった。夜叉坊は左右に角度をとり、フットワークと蹴りでヤンのプレッシャーを散らそうとする戦い方だったが、そう体格が大きいわけではないヤンのどっしりしたプレッシャーに押されてゆく。
フィニッシュ前に出されたヤンのコンビネーションは速い上に強弱がついている連打であり、蹴りを含めて7・8発が切れ目なく出される点は驚異である。その直後に左ストレートで石原ダウン、一度離れた後に鋭い右でヤンが石原を沈め、試合を終えた。タイガームエタイ仕込みと思われるパワーとスピードの勝利であるが、終始オクタゴンの主導権を奪われてしまっていたのが痛い。
リー・ジンリャン阿部大治の試合もまた、少々経験の差があり過ぎたと言ってよい。阿部はドゥエイン・ラドウィックのジムで練習をしていたようだが、UFCのベテランと言ってよいリーとの力の差はカバーできなかった。リーは序盤焦らずに蹴りとフェイントを中心に阿部の攻撃を読んでゆき、落ち着いた試合運びを見せる。阿部のカウンターも時折入るが、リーのインロー/アウトローから入る打撃コンビネーションのペースに巻き込まれてゆく。
2R以降、阿部はコツコツ入れられるローの距離に完全に支配されてゆき、パンチを見切ったリーの一方的なペースとなる。タイトな打撃で最後までリーの有利は全く揺るがなかった。阿部は、パンチを数多く被弾したにもかかわらずフルラウンドを健闘した点は評価されるだろうが、勝敗はジャッジの判定を待つまでもなく明らかであった。
レオン・エドワーズドナルド・セローニは5Rにわたる試合となったので、かいつまんで。セローニはフットワークを見る限り調子は良さそうで、いつものスロースタートではなく序盤から蹴りを出してゆく。エドワーズがクリンチから左肘を出すとカウボーイは出血。エドワーズは組みからの膝などの攻撃が上手く、蹴りも鋭い。セローニはフットワークを使いたいところだが、近距離でのクリンチワーク・遠距離の蹴りに牽制されて近づけずに1R終了。
2R、セローニは左右に動き角度をつけてエドワーズに攻撃しようとする。クリンチワークはセローニも長けているはずだが、エドワーズはそれを上回っており、そこから攻撃に繋げてゆくスタイルを確立している。ジョン・ジョーンズの戦い方から多く学んでいる感じで、どの距離で何を出すかを把握し、瞬時に使い分けることに長けている。相手に対する反応が早く、ミドルもよく決まっていた。
3Rはセローニがプレッシャーをかけてゆき、そこからのコンビネーションで打開を図るが、エドワーズはうまく距離をかわし致命傷を受けない。中盤、セローニはタックルも交えつつ、ボディも狙い下からの攻撃を進めてゆく。このラウンドの打撃ヒット数はセローニが多かったが、与えたダメージはそれほどでもない感じである。
4R、 セローニがバランスを崩し立ち上がったところでエドワードがハイを入れるが、クリティカルには決まらない。中盤で一度セローニはエドワーズに腰をつかせるが、すぐ立ち上がられてしまう。エドワーズはバランスも優れており、ハイを掴まれても倒されない。
ラストラウンド、残り1分30秒あたりでセローニはテイクダウンに成功するが、やはり抑え込むことはできない。膝への蹴り、ローを交えてゆくが、最後はセローニがマットを指差して打ち合いを示唆すると、エドワーズもマットを指差し、パンチの交換を行ったところで時間切れ。ジャッジは3人とも48-47で、エドワーズの勝利となった。
エドワーズの戦い方はジョーンズや、時折コナー・マクレガーを彷彿とさせるような動きで、どっしり構えたところからボディワークやフェイントを用いつつ、相手の穴をついてゆく攻撃をする。バランスの取り方に少し空手的な要素もあり、それもうまくMMAに取り入れている感じだ。
この点、エドワーズは試合前会見のスピーチで自分が「オールドスクール」ではなく「ニュースクール」に属すると語って、セローニとの違いを強調していた言葉の通りであった。イスラエル・アデサニャなどとも通じる動き方であり、参考にしている選手の違いがあると、世代差も出てくるということだろうか。
一方、負けた日本の選手は主導権を握られるとそのままで、不安定な姿勢に追い込まれた形で攻撃を出さざるを得なくなっていたのが残念だった。セローニは負けたものの、一方的にはならず、試合にはスウィングがあった。不利になっても主導権を渡し切らず、競り合って粘った末に勝つ試合運びも、ぜひとも見たいと思う。