ブライアン・オルテガvs.フランキー・エドガー(UFC222)
クリス・サイボーグvs.ヤナ・クニツカヤ(同上)
ラスベガスで開催されたナンバーシリーズ。メインの試合は当初、
フランキー・エドガー対
マックス・ホロウェイとの5Rタイトルマッチが予定されていた。だが
ホロウェイが怪我により欠場。代わりに、昨年12月
カブ・スワンソンに勝利を収めたばかりの
ブライアン・オルテガにエドガー戦のオファーがかかり、両者が対戦に同意。ノンタイトル戦のため、ラウンド数は3Rと少なくなった。
エドガー対オルテガがメインタイトルマッチでなくなった代わりとして、これも昨年暮れに
ホリー・ホルムに勝利した
クリス・サイボーグに急遽声がかかり、インヴィクタ王者である
ヤナ・クニツカヤとの対戦が看板試合として組まれた。
両試合ともショート・ノーティスだが、結果としてビッグネームvs.有望新進選手というマッチングになった。
エドガー対オルテガは1R開始直後から、エドガーがローとジャブのコンビネーションで距離を見てゆくのに対して、オルテガはパンチの応戦。互いにボディワークを用い、打撃の出方を測り合う。
エドガーはバックスピンキックなども出しつつ、ケージ際までオルテガを詰めようとするが、オルテガはフットワークで横にずれ、詰めさせない。その後も何度かエドガーはワンツーのラッシュをしながらオルテガに接近するも、その都度上手にかわされる。オルテガはジャブ連打を多く使う。
2分が経過した頃から、エドガーが積極的に前に出始め、コンビネーションに強い右オーバーハンドを交えるようになる。だが逆にオルテガもプレッシャーを高めつつ、スタンスをチェンジしてエドガーを撹乱する。
オルテガは時折左ジャブや左フックを入れてゆくが、左ハイがエドガーの頭に軽く入る。おそらくこれでオルテガの距離感が合ったのだろう。エドガーが左連打をしながら前に出てくる所を、スタンスを代えながら逃れると、飛び膝蹴りを見せた。後から思うと、これは蹴りで頭を狙える自信が出た印に思える。
オルテガの左にエドガーがワンツーで反応すると、その打ち終わりにまたもオルテガは右ハイを放つ。
オルテガのローにエドガーが反応してタックルに行くと、オルテガがぶり、スワンソン戦でも見せたギロチンの姿勢に。エドガーこれを嫌い離れる。エドガー、ジャブ連打してリセットするも、オルテガ距離を詰める。
オルテガがアッパーを出した所、エドガーがそれを避けようと組もうとする。両者離れた後、エドガーが近づいた際にオルテガの左肘が命中。さらに、効いている所へ左ハイを叩き込む。
エドガーはふらつきながら後退。オルテガの接近に対して左手を前に出すも、これが中途半端で、攻撃を防ごうとしているのか首相撲をしようとするのか分からない体勢のままだった。おそらく意識が朦朧としていたのだろう。
エドガーがオルテガの首に不用意に左手を巻き続けていた中、オルテガ下がって射程距離をセットし、強力な右アッパーカット。エドガーはマットに仰向けで倒れ、パウンドを入れられた所でレフェリーがストップした。
まあ率直に言って、超ショッキングな結果である。これまでいくら倒れても蘇り、その粘りで不利な展開を覆してきたエドガー。今回はエドガーの粘りが勝つか、はたまたオルテガがサブミッションゲームにどう引き摺り込むのか…と事前に思っていたら、なんと打撃戦で1Rでエドガーを断ち切る展開だったという(エドガーは公式戦初のKO負け)。
試合前はショートノーティスということもあり、正直私はエドガー有利かと思っていた。だがオルテガの極めて慎重かつ攻め所を知っている戦い方は、クレバーな柔術家のチェスゲームを打撃戦でも着実に実行したもののように見え、強い印象を受けた。
注意深く相手の反応・距離・動きを探り、どの攻撃であれば相手の力を殺し、自分の最大限の威力が示せるかを常に狙ってゆく戦い方である。
今回、打撃戦でも十分に魅せる戦いができることをオルテガは示した。これで順番的に、次はマックス・ホロウェイとの試合しかないだろう。
サイボーグ陣営は今回、公開ワークアウトでは覆面を被った
BJ・ペンが乱入を装って練習に参加するなど、趣向が凝らされていた。公開計量&フェイスオフで彼女は顔にペイントをほどこしていたが、これは前回のホルム戦でも塗っていた。MMAが含むエンターテインメント性をもよく理解し実行している、役者の感じである。
試合は1R開始直後、サイボーグが強力な右ストレートに続け右ボディを叩き込むと、クニツカヤは片足を取りテイクダウン。サイボーグが立つと、クニツカヤはバックを取るが、サイボーグ向き合う。
クニツカヤはタックルに行こうとするが、サイボーグが腕を巻いて抑え、それを許さない。クニツカヤは双差しから足を取ろうとするが、やはりタックルの姿勢には移行できない。サイボーグのケージレスリングの方が数枚上手である。
離れ際にサイボーグが右フック、そしてのしのしと歩み寄りながら右ボディ。クニツカヤの左に右オーバーハンドを合わせると、クニツカヤ膝を落とす。
サイボーグは深追いせず、またクニツカヤが立ち上がった所でやはり右を出す。クニツカヤは左前蹴りで距離を取ろうとするが、サイボーグの飛び込み気味の威力ある右が命中し、再度クニツカヤ崩れる。そこからサイボーグはパウンド連打。見ていたレフェリーのハーブ・ディーンが試合をストップした。
緊急発進の出場となったクニツカヤには気の毒だが、これはサイボーグの横綱相撲と言っていいだろう。サイボーグはMMAファイターとしてほぼ完成されたスタイルであり、パワー、スピード、プレッシャー、それから試合のダイナミックさでは他の追随を許さない。「シュートボクセスタイル」だと本人も述べているが、現在戦っている選手で、男女問わず、王道的でありながら観客に喜ばれるMMAの戦い方を見せ続けている選手は、彼女なのではないだろうか。
古くからのMMAの歴史を引き継ぐオーセンティックなスタイルでありながら、現代MMAでも通用するという、稀な姿をサイボーグは見せ続けている。