2018年2月12日月曜日

UFC221:ロメロvs.ロックホールド

ヨエル・ロメロvs.ルーク・ロックホールド(UFC221・パース
オーストラリア・パースで開催されたUFCナンバーシリーズ。マーク・ハントを筆頭とする地元オーストラリアとニュージーランド、さらにアジア系の選手が多く揃えられた大会だ。また最近のUFCには珍しく、女性選手のカードが一つもなかった。
プレリムでは阿部大治石原夜叉坊廣田瑞人がそれぞれルーク・ジュモーホセ・キニョネスロス・ピアソンと当たったが全て敗退、しかも判定負けという結果であった。
阿部は1Rはパンチ中心の打撃で明らかに取ったと思われるが、2R以降そこに対策されてジュモーの攻め方が変則的なものに変わり、ボディーなどが入るようになる。阿部はスタミナも消耗して弱っていった。パンチのみの打撃力では遜色ないが、戦略や引き出しの多さの面で総合的に押し切られた感じだ。
夜叉坊も打撃ではやはりイーブンだが、1Rキニョネスのグラウンドコントロールに手が出ず、その後目覚ましく挽回するまでには至らなかった。廣田対ピアソンは、2Rには廣田が上下に散らすフックの連打などで見せ場を作るも、全ラウンドを通じて一進一退。ジャッジには、ピアソンの前に出る打撃の姿勢の方が全体として優位に見えたということだろう。
攻めの姿勢は出ているものの、相手のペースに巻き込まれてしまう。基礎能力はそこまで違わないが、何かが惜しい。そしてそこにある僅かな差が、決定的な違いとなって結果に表れているのである。戦略や頭脳戦も含めた、チームとしての総合力も重要なところなのかもしれない。
ヨエル・ロメロルーク・ロックホールドは、ロックホールドがAKAから離脱してヘンリー・フーフトのところで練習するようになって最初の試合ということで、その点でも注目が集まっていたが、公開練習にはAKAヘッドコーチのハビエル・メンデスも顔を出し、良好な関係がアピールされていた。
ところが周知の通り、計量でロメロが3ポンド以上のオーバー。ファイトマネーの20%移譲と、勝ってもロバート・ウィテカーへの挑戦権がないという条件で、試合は決行されることとなった。
ドーピングに続き「またやってくれたか」という感じで正直盛り下がったのだが、それでもUFCのフェイバリットであることには変わりがないのが、ロメロのキャラクターだ。その身体能力についてはダン・ハーディやジョー・ローガンが「モンスター」や「フリーク」などと形容しており、「Inside The Octagon」でもその動きの特殊性に注目された。
ちなみに、以前のUFC213でその身体能力を見せつけた下の公開ワークアウト動画再生回数は、驚異の220万回越えとなっている。
ロメロの扱いは現在のUFCでも象徴的なものだろう。オリンピックのレスリング元銀メダリストという肩書きを持ちつつも、高度にシステム化している現代MMAの中で、そこにはまらない「超人的」な運動能力でセオリー通りではないワイルドな動きをする。キューバという出身地もまたそのイメージにそぐったものなのだろう(今回は公開ワークアウトでサルサを踊っていた)。
一方でロメロはドーピングや計量オーバーといったイリーガルでダーティな面があり、ティム・ケネディからは蛇蝎のごとく嫌われていた。試合運びの中でも、反則ギリギリの狡猾な動きが出るタイプだ。英語がもっとできればトラッシュトークも激しいものになっていたはずだ(マイケル・ビスピンと本当はそれをやりたかったのだろう)。
ロメロはいわば、総合の元にあったようなワイルドさや幻想を保ちながらも、アスレチックであるという二重性を持っている選手だ。この意味で、現在のUFCにとっては賦活剤のような選手である。総合格闘技は洗練されすぎると魅力が減ってしまうという、逆説的な特性を持っているからだ。
試合は1R、ロックホールドがダッチスタイル的な対角線コンビネーションも織り交ぜつつ、しきりに右ジャブで距離を測る(両選手ともサウスポー)。一方ロメロは左右の手をタッチのように出しつつ、時折飛び込むような右や左のフックを放つも、ヒットはしない。ロメロは中盤から左ローやオブリークキックも出すが、両者ともに動きと距離の読み合いという展開。ロメロの広げた手が、パリーするガードとしてうまく機能していた。
2R冒頭にロメロはラッシュを仕掛け、ロックホールドを金網に押し付けるがやはり決定的ダメージはなく逃げられる。しかし、これで動きの主導権と、ケージ内でセンターポジションを握ることに成功する。以降、ロックホールドは下がりながら1Rと変わらずに攻撃をしてゆく。ロメロ、肘二発連打のそぶりを見せてからのラッシュや、前足に鉄槌をするなど撹乱的な動きも見せた後、打撃を交換しつつラウンドが終了した。
3R、ロックホールドが最初出るが、ロメロが圧力をかけだす。ここでロメロの構えは手を開いたポースから手を握り気味になり、ブロッキングで打撃を避けるように変えていた。そしてフィニッシュは突然訪れた。ロメロが左パンチをロックホールドの膝に打ち若干注意を逸らした後、右2発から強烈な左のコンビネーションが見事にロックホールドの右側頭部に炸裂。これでロックホールドは金網に倒れこみ、KOとなった。左アッパーの追撃は必要なかっただろう。
この負け方で思い出すのは、ロックホールドはUFC199のマイケル・ビスピン戦と同じように、相手の右パンチが(ビスピン戦の場合は胸に)入ってから左フックでダウンしていることだ。ロメロ陣営はこの試合を研究した上で、左に注意を逸らせたのちに右サイドから来る攻撃を、ロックホールドは見えていないと踏んでいたのだろう。その意味では作戦が当たったと言える。
ロメロはディフェンス面も相当上達しており、またそれまでの弱点であったスタミナをカバーするように体力を消耗しない動き方を心がけていた。一見、無計算のようなロメロだが、実際にはこの戦いに向けて相当な戦略を練ってきていることは、当然ながら明白だ。
それだけに、計量オーバーはあまりに残念だ。元々はウィテカーの負傷欠場でロメロと対戦したロックホールドとしては、かなり損な試合になってしまったのではないか。試合結果以外のことで選手が割を食ってしまうのは、UFCを見ている側にとっても鼻白む思いがする。ロメロはどこかでもう一度ロックホールドとのリマッチがないと、なかなか釈然としない展開である。

※追記:どうやらロメロ対ウィテカー戦を組む予定があるという話が…おいおい。