2018年3月18日日曜日

UFCファイトナイト127:ヴェウドゥムvs.ヴォルコフ

アレクサンダー・ヴォルコフvs.ファブリシオ・ヴェウドゥムUFCファイトナイト127
先週はUFCも一回休み。ロンドンで開催されたUFCファイトナイト127、セミはヤン・ブラホヴィッツジミ・マヌワの再戦(前回はUFCファイトナイト64、2015年。この際はマヌワの勝利)だったが、今回はブラホヴィッツがマヌワを下し、ファイト・オブ・ザ・ナイトに選ばれる激戦となった。
 
ブラホヴィッツはダレン・クラーク戦でのスタンディングRNCでインパクトを残し、昨年10月から2〜3ヶ月間隔で3試合して連勝してきた上でマヌワを倒したので、次はかなり上位の選手と当たることになるだろう。
メインはアレクサンダー・ヴォルコフファブリシオ・ヴェウドゥムACBのイベントとしての存在感が増すとともに注目されるロシア・中央アジア勢だが、ベラトール→M-1グローバル→UFCへと戦場を移してきたヴォルコフは、ティモシー・ジョンソンロイ・ネルソンシュテファン・シュトルーヴを3タテして強さのアピールが知られてきていた所だった。
特にシュトルーヴ戦は、双方2メートル超え同士のメインイベントだったことで、強力なインパクトがあった。揃い踏みすると巨神兵が二体。圧巻である。
欧米では重い階級でないとポピュラリティがなかなか高まらないとはよく言われるが、人並み外れた体格の人間たちを見たいという気持ちは私も同様。ここら辺は相撲やプロレスなどとも共通する心情のはずだ。
だがアジア圏と環境が大きく異なるのは、この規格の選手が多く揃い、「スポーツ」が成立する所だろう。ヴォルコフの打撃はむしろ精密なもので、体格やパワー頼みの動きとは根本的に異なっている。元々は芦原空手系の「Tsu Shin Gen」という格闘技出身のようだ。
ロシアや中央アジアでは格闘家の社会的地位が比較的高く、格闘技=労働者階級のものである西ヨーロッパとは文化的に異なっている。ここら辺は興味深い所で、これにはかつてのステートアマの存在などソビエト連邦時代の影響もあるのではないかとも思うが、特に詳しくないのでここら辺でやめておきたい。
しかし今回、ヴォルコフの試合前インタビューはチェックジャケットにピンホールシャツ、ネクタイという出で立ちで、やはりアメリカや西ヨーロッパには見られない雰囲気を感じてしまった。ニックネームの「ドラゴ」は伊達じゃない。
 
一方、対戦相手のヴェウドゥムはトラヴィス・ブラウン戦の前に、スパーリング・パートナーとしてヴォルコフをキングス・ジムに呼んで一緒にトレーニングをしたことがあるとのことで、個人的な関係は良好のようだ。
フェイス・オフではヴェウドゥムがパイプ椅子を持ち出し、ヴォルコフを見下ろすパフォーマンスもあったが…
ヘビー級においてもそれだけ、ヴォルコフの身長は規格外ということだろう。
 
さて試合だが、4Rにわたって渋い攻防が見られる展開となった。
1R冒頭からヴェウドゥムはブラウン戦で見せた飛び蹴りをかます。ヴォルコフは苦笑いしながらかわすが、その心理的隙を見たヴェウドゥムはタックルに入り、相手の左前足の膝を抱えてテイクダウンに成功する。
ここら辺の駆け引きはヴェウドゥムが圧倒的に上手い。ヴォルコフがガードポジションになると、上からヴォルコフの首を両手で抱え込んで相手の体を縮め、足を効かせないようにして抑えてゆく。ケージで相手の後頭部を抑える形に押し込み、ヴォルコフの動きを防ぎながらパウンドを入れていった。
残り1分40秒頃、片足への草刈りを使って立ったヴォルコフはフックとアッパーの連打、それに膝蹴りをまとめて打ち込む。ヴェウドゥム、飛びついて引き込みを図るが失敗、続けて膝蹴りを出すも掴まれてスタンドに戻る。しかし再び膝を掴むタックルに行くとテイクダウンに成功。だがヴォルコフの肘も時々ヴェウドゥムの頭に命中しながら、ラウンド終了。
2R、すでにヴェウドゥムの右目瞼が腫れている。スタンドでヴェウドゥムはローやハイを出しながら距離を図る。しかし、ヴォルコフがサウスポーにスタンスを代えているため、1Rでは出せた前足狙いのタックルが出せない。
ヴォルコフがスタンスをオーソに戻した所でヴェウドゥムがタックルに行くも、切られる。ヴォルコフ、ヴェウドゥムが出した蹴り足を掴み、軸足に蹴りを入れて倒すが深追いはしない。
だがここでヴェウドゥムは、タックルで狙う位置を足から胴へと変える。ヴォルコフの胴を抱える形で組みつき、テイクダウンに成功。そこからパウンドを降らせ、最後は腕がらみを狙うもラウンド終了。
ポジションはヴェウドゥムがとったが、ヴォルコフも相手に足を越えさせなかった印象だ。
 
3R、再び飛び蹴りから入るヴェウドゥム。スタンドで左右のパンチ、蹴りなどを入れてゆく。ヴェウドゥムがパンチのコンビネーションを出し、それにヴォルコフが反応して打ち返してきた所で、膝を取りタックル。そこからヴォルコフの左足に潜り(ディープハーフガード)、相手の足を軸にしながら回転、見事なスイープを決めた。
ヴェウドゥム、ヴォルコフの足をかいくぐりバックを取ろうとするも離れられ、両者立ち上がる。ヴォルコフは向き直るとヴェウドゥムの足をすくいテイクダウン、しかし倒しただけでスタンドを要求。ヴェウドゥムはまたもタックルから再度潜り、スイープを狙うが両者離れる。ここでグローブに関連してレフェリーの注意がヴォルコフに入った。
ヴォルコフ、左ボディから右左のコンボ、ローを入れる。ヴェウドゥム、スピニングバックフィストや左右のパンチを入れた後で再び膝へのタックル。そこから潜り、テイクダウン。今度はバックに回るが、腕を狙いに行った所でヴォルコフに立たれる。
しばし打撃の交換をした後でヴェウドゥム、タックルに行くもヴォルコフに切られる。今度はヴォルコフがヴェウドゥムの足を取って倒すも、スタンドに戻る…という攻防を二度ほど繰り返してラウンド終了。
ヴェウドゥムは、ヴォルコフのジャブで右顔面全体が腫れてきている。
試合は4Rで決まった。冒頭の展開は3R後半と同じだが、ヴォルコフはディープガードスイープに対応しはじめ、決定的な展開を防ぐ。ヴェウドゥム、ガードポジションに引き込むも、ヴォルコフは肘やパウンドを入れながら立つ。
するとヴェウドゥムが突如としてパンチの連打を仕掛け、それにヴォルコフが応戦。左から右アッパー、さらにアッパーを重ねるとヴェウドゥムが後ろに崩れ落ちるようにダウン、パウンドを入れて勝負を決した。
最後はヴォルコフが決めたが、全体を通してはヴェウドゥムのクレバーさとグラウンドスキルの高さが目立った試合だった。
ラウンド最初の飛び蹴りはウケ狙いというよりも、おそらく大きな相手に最初から距離を支配させない狙いがあると思うし(下の動画画面はブラウン戦のもの)、グラウンドでしばしばヴォルコフの頭を抱えにいったのも、相手の体格を殺す意味があるだろう。
またスイープも何度か見事に決めており、大抵はパウンドで防がれてきた潜りが、MMAで有効に使われているのを久々に見た。
しかし試合が長引いてゆくと、前のラウンドでは有効だった攻めを、ヴォルコフがどんどん防ぐようになっていった対応力には目を見張るものがあった。
それにつれ、ヴォルコフの打撃と身体の圧力がじりじりと勝っていったのだろう。ヴェウドゥムの最後の唐突な打撃は、スティペ・ミオチッチ戦での追いかけすぎなパンチを思い起こさせるミスだ。しかし老獪なヴェウドゥムをそこまで追い詰めてミスを誘い出した、ヴォルコフの的確な対応力が最終的に勝利を引き寄せたと言える。
一試合内で相手の得意とする戦略に次々に対応し、局面を変えられる力は、MMAファイターとして極めて優れたものだ。
ヴォルコフの次の対戦候補として、ダン・ハーディはフランシス・エンガヌーを挙げていたが、妥当だろうし、もし実現したら楽しみである。

2018年3月5日月曜日

UFC222:サイボーグvs.クニツカヤ

ブライアン・オルテガvs.フランキー・エドガーUFC222
クリス・サイボーグvs.ヤナ・クニツカヤ(同上)
ラスベガスで開催されたナンバーシリーズ。メインの試合は当初、フランキー・エドガーマックス・ホロウェイとの5Rタイトルマッチが予定されていた。だがホロウェイが怪我により欠場。代わりに、昨年12月カブ・スワンソンに勝利を収めたばかりのブライアン・オルテガにエドガー戦のオファーがかかり、両者が対戦に同意。ノンタイトル戦のため、ラウンド数は3Rと少なくなった。
エドガー対オルテガがメインタイトルマッチでなくなった代わりとして、これも昨年暮れにホリー・ホルムに勝利したクリス・サイボーグに急遽声がかかり、インヴィクタ王者であるヤナ・クニツカヤとの対戦が看板試合として組まれた。
両試合ともショート・ノーティスだが、結果としてビッグネームvs.有望新進選手というマッチングになった。
エドガー対オルテガは1R開始直後から、エドガーがローとジャブのコンビネーションで距離を見てゆくのに対して、オルテガはパンチの応戦。互いにボディワークを用い、打撃の出方を測り合う。
エドガーはバックスピンキックなども出しつつ、ケージ際までオルテガを詰めようとするが、オルテガはフットワークで横にずれ、詰めさせない。その後も何度かエドガーはワンツーのラッシュをしながらオルテガに接近するも、その都度上手にかわされる。オルテガはジャブ連打を多く使う。
2分が経過した頃から、エドガーが積極的に前に出始め、コンビネーションに強い右オーバーハンドを交えるようになる。だが逆にオルテガもプレッシャーを高めつつ、スタンスをチェンジしてエドガーを撹乱する。
オルテガは時折左ジャブや左フックを入れてゆくが、左ハイがエドガーの頭に軽く入る。おそらくこれでオルテガの距離感が合ったのだろう。エドガーが左連打をしながら前に出てくる所を、スタンスを代えながら逃れると、飛び膝蹴りを見せた。後から思うと、これは蹴りで頭を狙える自信が出た印に思える。
オルテガの左にエドガーがワンツーで反応すると、その打ち終わりにまたもオルテガは右ハイを放つ。
オルテガのローにエドガーが反応してタックルに行くと、オルテガがぶり、スワンソン戦でも見せたギロチンの姿勢に。エドガーこれを嫌い離れる。エドガー、ジャブ連打してリセットするも、オルテガ距離を詰める。
オルテガがアッパーを出した所、エドガーがそれを避けようと組もうとする。両者離れた後、エドガーが近づいた際にオルテガの左肘が命中。さらに、効いている所へ左ハイを叩き込む。
エドガーはふらつきながら後退。オルテガの接近に対して左手を前に出すも、これが中途半端で、攻撃を防ごうとしているのか首相撲をしようとするのか分からない体勢のままだった。おそらく意識が朦朧としていたのだろう。
エドガーがオルテガの首に不用意に左手を巻き続けていた中、オルテガ下がって射程距離をセットし、強力な右アッパーカット。エドガーはマットに仰向けで倒れ、パウンドを入れられた所でレフェリーがストップした。
まあ率直に言って、超ショッキングな結果である。これまでいくら倒れても蘇り、その粘りで不利な展開を覆してきたエドガー。今回はエドガーの粘りが勝つか、はたまたオルテガがサブミッションゲームにどう引き摺り込むのか…と事前に思っていたら、なんと打撃戦で1Rでエドガーを断ち切る展開だったという(エドガーは公式戦初のKO負け)。
試合前はショートノーティスということもあり、正直私はエドガー有利かと思っていた。だがオルテガの極めて慎重かつ攻め所を知っている戦い方は、クレバーな柔術家のチェスゲームを打撃戦でも着実に実行したもののように見え、強い印象を受けた。
注意深く相手の反応・距離・動きを探り、どの攻撃であれば相手の力を殺し、自分の最大限の威力が示せるかを常に狙ってゆく戦い方である。
今回、打撃戦でも十分に魅せる戦いができることをオルテガは示した。これで順番的に、次はマックス・ホロウェイとの試合しかないだろう。
サイボーグ陣営は今回、公開ワークアウトでは覆面を被ったBJ・ペンが乱入を装って練習に参加するなど、趣向が凝らされていた。公開計量&フェイスオフで彼女は顔にペイントをほどこしていたが、これは前回のホルム戦でも塗っていた。MMAが含むエンターテインメント性をもよく理解し実行している、役者の感じである。
試合は1R開始直後、サイボーグが強力な右ストレートに続け右ボディを叩き込むと、クニツカヤは片足を取りテイクダウン。サイボーグが立つと、クニツカヤはバックを取るが、サイボーグ向き合う。
クニツカヤはタックルに行こうとするが、サイボーグが腕を巻いて抑え、それを許さない。クニツカヤは双差しから足を取ろうとするが、やはりタックルの姿勢には移行できない。サイボーグのケージレスリングの方が数枚上手である。
離れ際にサイボーグが右フック、そしてのしのしと歩み寄りながら右ボディ。クニツカヤの左に右オーバーハンドを合わせると、クニツカヤ膝を落とす。
サイボーグは深追いせず、またクニツカヤが立ち上がった所でやはり右を出す。クニツカヤは左前蹴りで距離を取ろうとするが、サイボーグの飛び込み気味の威力ある右が命中し、再度クニツカヤ崩れる。そこからサイボーグはパウンド連打。見ていたレフェリーのハーブ・ディーンが試合をストップした。
緊急発進の出場となったクニツカヤには気の毒だが、これはサイボーグの横綱相撲と言っていいだろう。サイボーグはMMAファイターとしてほぼ完成されたスタイルであり、パワー、スピード、プレッシャー、それから試合のダイナミックさでは他の追随を許さない。「シュートボクセスタイル」だと本人も述べているが、現在戦っている選手で、男女問わず、王道的でありながら観客に喜ばれるMMAの戦い方を見せ続けている選手は、彼女なのではないだろうか。
古くからのMMAの歴史を引き継ぐオーセンティックなスタイルでありながら、現代MMAでも通用するという、稀な姿をサイボーグは見せ続けている。