チアゴ・サントスvs.エリク・アンダース(UFCファイトナイト・サンパウロ)
先週から今週にかけては色々とメジャー系のイベントが重なっていた。ONE
Championshipの話から入ってしまうが、やはりONEでの
若松佑弥と
内藤のび太の試合結果はショックであった。若松は中盤までかなり互角だったが、3Rでのタックルに行った所で
ダニー・キンガッドにバックを取られてコントロールされ終了…というのは悔しい負け方である。
アジア各国を含む世界全体でのMMAのレベルが軒並み上がっていることは、もはやわざわざ言うことが陳腐なほどの事実だ。
フィリピンのチーム・ラカイは(ゴン格の終刊直前に特集されていたことを思い出すが)今や
エドゥアルド・フォラヤンや
ケビン・ベリンゴンのみではなく、キンガッドのような若手が力をつけている強豪であることを示している。
アジアには軽量級の選手がまだまだ数多く潜在している。MMAを知り、現在必死にトレーニングに励んでいて、これで食ってやろうと考える人間がまだまだゴロゴロいるが、その道に進むきっかけはもはやPRIDE等々(「総合格闘技」)とは無関係に、現在活動中のメディアが作っている。
そして現在の世界においては、技術水準はあっという間に平準化されてゆき、ある程度力がついた選手が皆、最先端の技術やトレーニングを学んでゆく(先日
長谷川賢に勝った
アングラ・エヌサンは、ハードノックス365で練習していた)。「MMA」は良くも悪くも、グローバル化が徹底した時代の産物である。
今までののび太の活躍や、
松嶋こよみの
マラット・ガフロフへの勝利は先につながるものだし、若松にとっても辛いレッスンになったはずだ。
いずれにしても捨てなければならないのは、日本がMMAにおけるアジアの先進国であるという幻想(の残滓)である。まあ、どういう分野でも共通するような問題が格闘技にも出ているということだろう。
RIZINはその中で、コア層とカジュアル層のどちらも取りに行くため、国内的な文脈とグローバルなMMAの文脈を組み合わせた大会づくりをしている。この点では、日本国内におけるアテンションはONEに一歩先んじている。
しかし先のアングラ・エヌサンがミャンマーでのナショナル・ヒーロー化しているところを見ると、かつての長島・王時代のような(? 体験はないが)ものを感じさせられた。ONEは経済新興国においてMMAを各国の「ナショナル・スポーツ」の位置に押し上げることを戦略としているように思える。大掛かりである。
まあ、日本で言えばかつての大晦日民放は、「年中行事」化していた点で人々の生活のサイクルに入り込んでおり、一国内とはいえ一応はそれに近い形だった訳だ。しかし、現在のネット主力の格闘技展開において、それはどのような形になりうるだろうか?
那須川天心vs.
堀口恭司は非常に魅力的な試合で、「神童」vs.「UFCを振った男」というのはそれだけで興味を煽るものだし、また試合自体も尋常でないスピード感と駆け引きに満ちたもので十分楽しめた。すでに様々に指摘されているように、3Rで堀口が少々バテた感じだったのが勝負の分かれ目だったろう。正直、速すぎて目に止まらなかったところもあり、見直すと発見が多くある試合である。
しかし、魔裟斗vs.山本KIDの場合とも違い、両者ともに最高度の「職人技」と「能力」を見せてくれた印象が強い。つまり、魔裟斗vs.KIDの時よりもより「スポーツ的」な試合であった。
これを大晦日に持ってこなかったことも象徴的に思えたが、那須川も堀口も普通の人の身の回りにはいない超人タイプであり、魔裟斗やKIDのような「いそうでいない」・生き様に憧れを抱かせる(仮に実像と異なろうとも)対象とは今のところ異なっている。もっと言えば、かつての両者はたとえ実力的には「最強」と言えなくとも、全体を通して「格闘家」を体現していたのである。
しかし、今後の選手は彼らのタイプにもしばられることなく、おのおのが独自の「格闘家」像を示してほしいと私は思う。その意味で那須川・堀口両者の今後に注目したい。RIZINの「素人向け・玄人向け」路線の乖離は現時点で必要だと思うが、今後もしその両者が交わるところがあれば、人気的にもさらに期待が持てるだろう。
まあ、勝手な期待はこの辺りで。
国内のイベントと今週末に行われる
UFC229:ヌルマゴメドフvs.マクレガーの話題性の裏で、少々記憶が薄らいでしまってきているUFCファイトナイト137だが、メインでは
アントニオ・ホジェリオ・ノゲイラが
サム・アルヴィーを2RKOした。
風貌や体つきに年齢の反映は隠せない感じのリトル・ノグだが、試合の主導権をほぼ握り続け、特にボクシングゲームにまだ一線級のものがあることを証明した形だ。リトル・ノグも42歳と、
先日書いた世代とほぼ同年代である。
トリは
チアゴ・サントス対
エリク・アンダース。サントスはこれがライトヘビー級転向後、最初の試合である。もともとはサントス対
グローバー・ティシェイラが組まれていた所、テイシェイラの怪我で相手が
ジミ・マヌワに代わった。しかし、
ハムストリングスの怪我でマヌワが出場断念。わずか6日間のショート・ノーティスで、サンダースが代わりの出場となった。
アンダースは8月のUFCファイトナイト135にも出場しており、前の試合から一ヶ月しか間隔が空いていない。しかも会場はアウェイのブラジル・サンパウロという、不利しかない条件である。まずは試合を受けたこと自体が評価されるべきだろう(しかし、条件が悪すぎる。他にいなかったのか)。
1R、サントスがフットワークを使い回ってゆく。左ローを入れるとアンダースがその足を掴み、サントスを倒した後で組んでゆく。しかしサントスは内股で体を入れ替えた後、アンダースがサントスの右脇を差し、ケージに押し付けてゆく。サントスは膝蹴りを入れるが、アンダースは片足を取り引き倒した形からバックを取る。
アンダース、相手の頭を押さえ膝蹴りを入れるが、向き合った形になり、サントスが膝蹴りを入れた後で両者離れる。
サントス、右ミドルから右ハイを入れる。ワンツーパンチで前進するが当たらず。ただ、回りながらなので相手にも的を絞らせない。アンダースが右ジャブ、左ストレートを出すが、かする程度。
サントスは前蹴り、左ミドルと蹴り中心に出しながら回ってゆく。アンダースもボディ・左フックを出すが届かず。サントス、左を出しながら首相撲に行くが、四つになりケージ際で膝蹴りの打ち合いに。
アンダースはその後タックルに行こうとし、片足タックルからサントスを崩すもすぐにスタンドアップ、サントスが左右と蹴りで距離を取った。アンダースも蹴りを出すが、サントスの前蹴りとひざ下のローだけ当たる形に。最後にサントスが後ろ回し蹴りを出すが、外れてラウンド終了。
2R。サントスの右ミドルがアンダースにヒットする。その直後にパンチの打ち合いになるが、両者クリーンヒットせず。その隙にアンダースがタックル、左足を抱えるも、サントスはギロチンの構えを見せながらアンダースを引き倒し、アンダースに対してトップポジションを取る。そのままパウンドを打ちつつ相手のガードに入るが一度離れ、再びパウンドを打った後にアンダースの足を抱え、ガードに入る。
アンダースが脇を差して立とうとするがサントスはそれを許さない。アンダースのハーフガードになるが、再び立ち上がる際、アンダースの頭に膝蹴りを叩き込む。その後左右を打ちながらサントス攻めるのに対してアンダースも応戦。打ち合いの後に少し離れ、サントスローを打つ。
サントスが右ミドルを出すのに対してアンダースはパンチを打ちながら飛び込み、タックルを狙う体勢。パンチを避けては左右を出しつつ前に出てゆくが、サントスの前蹴りとミドルがコツコツ当たる状態で、アンダースのパンチは当たらない。蹴りも外れる。
サントス、下からの肘打ちを出した後、右ミドルからの左フックを出すとアンダースは下がり、ケージまでパンチを打ちながら押し込んでゆく。アンダースは膝をついた後ですぐ立つが、少しガス欠になってきているようだった。
サントスの出したワンツーの左が当たり、さらに飛び膝を出した際にアイポークをとなってしまい、一時短い中断が入る。
再開後、アンダースは前に出てサントスを尻餅つかせる形でケージに詰め、膝蹴りを入れた所でラウンド終了。セコンドもアンダースの疲労を気遣う。
3R、サントスはひざ下ロー、さらにオブリークキックを当ててゆく。アンダースの左が当たりサントスが打撃を返す隙にアンダースはタックル、上を取りパウンドを当てた後にバックを取ることに成功する。
パンチを入れつつRNCを狙うが極まらず、アンダースがトップへ移行しようとする所でサントスは立ち上がり、そのまま四つから膝蹴り、左パンチに蹴りを出し、両者離れた所で飛び蹴りを放ってゆく。
サントスの左フックからの右アッパーが当たらず、アンダースはタックルにゆくが、回転肘を出しながらサントス離れる。サントス、前蹴り2発から左、アンダースをケージ際に詰めてパンチ連打を見舞うが、アンダースが組んでゆき、バックを奪う。膝蹴りを出すが間もなくサントス向き直り、両者離れる。
再び蹴りとパンチの応酬があるが、アンダースがサントスの膝蹴りにも構わずタックルに行き、テイクダウンに成功。サントスをケージ際に押し込み、倒してトップを取り、ハーフの体制でパウンドを打つ。
しかしサントスは立ち上がり、アンダースがそこにもう一度タックルに行く。サントスは倒されながらも肘打ちをアンダースに加えてゆく。するとアンダースはマウスピースを吐き出し、密着してゆくがサントスは容赦なく肘打ちを下ろす。一旦レフェリーがマウスピースを入れさせるために止めるが、再開後はまた肘打ちを加え続け、アンダースはサントスにほぼ寄りかかった姿勢のままでホーンが鳴った。
しかしアンダースはインターバルになっても苦しげな表情のまま立ち上がれず、セコンドに支えられるが膝から崩れ落ち、最後はリングの中央で大の字になってしまい、レフェリーがTKOを宣言してサントスの勝利となった。
サントスは階級変更後の大きな一勝だったが、アンダースがスタミナ的に切れたのか、それとも
トラヴィス・ブラウン対
ジョシュ・バーネット戦以降タックラーに対して有効なことが証明された、入られた状態で相手の側頭部に叩きつける肘打ちが効いたのかはハッキリしないが(おそらく後者が大きいだろう)、インターバルでのああいう終わり方をUFCで見たのは初めてかもしれない。
アンダースの緊急発進という事情は事情なのだが、勝敗の結果はそのような言い訳を許さないところが、厳しい点でもある。両者ともに、次の試合がまたさらに重要となるだろう。